ファンタジーがもたらしたもの

砂上楼閣

第1話

A「やぁ、はじめまして。君、長い間コールドスリープしてて、ついこの間目が覚めたんだって?」


B「ええ、目が覚めたら随分と世界が様変わりしていて驚きましたよ」


A「だろうね。ここ何年かでここら辺も一気に開発が進んだし、君が眠りについた頃とは景色もだいぶ変わってるだろうね」


B「景色もですけど、一番驚いたのは魔法ですね。当たり前みたいに手のひらから水を出してて、最初は手品か何かだと思いましたよ」


A「ああ!魔法が御伽話の中の存在じゃなくなったのは、もう随分と前のことだからね。それに病院だったら水が出せる人は多いかも。今じゃ魔法は資格や免許と同じだからね」


B「そうなんですか?じゃあ僕も魔法が使えるように…?」


A「なれるなれる。申請して試験に合格すればすぐに魔法が使えるようになるよ。ただ15歳未満だと親の同意書が必要になるのと、使える魔法によっては講習会に出る必要があるんだけど」


B「あ、そんな感じなんですね。一応コールドスリープ前に高校は卒業してるので年齢は問題ないです。ちなみにどうやって魔法が使えるようになるんですか?」


A「煌めきのクリスタルオーブって言うな、初めて魔法を授かる時に使用するマジックアイテムがあるんだよ」


B「マジックアイテム!なんかゲームみたいですね」


A「そうだな。見た目は結構幻想的な感じだったよ。ガラスで出来た入れ物の中に、色ごとの綺麗な石が入ってるんだ。それぞれ火、水、木、風、土の魔石が入ってる。他にも種類はあるらしいんだけど、こっちの世界に持って来れたのがその5種類だったって話だ」


B「へぇ!それでどうやって魔法が使えるようになるんですか?」


A「魔力が覚醒していない奴だけに反応するようになっててさ。両手で触れるとオーブの中にあるたくさんの魔石がうっすらと光るんだ。その中の一つだけが触れた奴と共鳴する。そんで共鳴した魔石を手にすることで魔法を使えるようになるんだ。相性があって、欲しい魔法が授かれるかは運だな」


B「あ、そうなんですね…。それにしても、その、煌めきのクリスタルオーブ?はどうやって出来たんですか?魔法が使えるようになるなんて、すごい発明ですね」


A「ああ、オーブは別の世界から来たんだよ。ある日、空が裂けてこの世界と¨向こう側¨にある世界と繋がったんだ。なんでも魔王と勇者の戦いの余波で空間が歪んで耐えきれずに裂けちまったんだと。それで向こうの世界の人間がお詫びにっていくつかのマジックアイテムを置いていったんだ」


B「え?別世界ですか?御伽話というかゲームや漫画みたいな話ですね…」


A「今じゃ義務教育で教わる話さ。肝心の裂け目はもう塞がって開かないし、そのせいかもらったマジックアイテムも今はもうほとんどただの骨董品らしいよ。繋がってた当時はそれはもう凄まじい効果があったらしいけどなぁ」


B「なるほど、それは興味深い話ですね。ほとんどってことはいくつかはまだ使えるんですね。その内の一つが煌めきのクリスタルオーブ、ですか」


A「そうそう。詳しい仕組みは専門家じゃないから分からないけど、なんでも魔石ってのが空気中にある魔素って物質を少しずつ少しずつ溜め込んでるから、時間をかければ何度でも使えるんだってさ。まぁ自動で充電される乾電池みたいなもんかもな」


B「それでさらに魔法も使えるようにしてくれる、と。本当に興味深いです。それで、魔法が使えるようになって何か変わりました?生活の一部として定着してるみたいですし、この時代からは昔の話になるでしょうが、漫画やアニメみたいな感じに変わったんですか?」


A「魔法が誰でも使えるようになって生活は変わったのかって?……うーん、そうでもない、かな」


B「そうでもない?」


A「便利と言えば便利だけど、できるのはターボライター程度の火を出したり、扇風機くらいの風を起こしたりできるくらいだ。せいぜいタバコに火をつけたり、電気代の節約になるくらいさ」


B「そんな夢のない…」


A「夢も現実になったら、それはもう現実以上でもそれ以下でもないのさ。多少の便利さなんて慣れりゃ当たり前ってやつだよ。車や飛行機と同じ。出た当時はそれはもうすごい!革新的だ!素晴らしい!なんてもてはやされても、時間が経てばそれは普通で当たり前になるってもんさ」


B「それはまぁ分かりますが…。それでも、魔法ですよ?そんなライターや扇風機って…」


A「火や風だけじゃないぞ?土や木もだ。頑張って土の壁をつくったところで耐震強度も何もありゃしないし、植物の成長を早めたところで、畑の収穫量に大した差はでない。木が育つのが何週間か早まっても一本に付きっきりじゃあな。まぁガーデニングとか趣味の範囲なら意味があるんだろうが」


B「…………。あ、水。水はどうなんです?」


A「ああ、水は他と比べていい感じに役立ってるぞ。喉が渇いたら飲めるし。水が貴重な国とかでは重宝されてるって話だ。まぁそれでも1日に出せて何リットルかって話だが。それと純度が高くて純水と同じらしいよ。ミネラルも何もない。医療現場とかだと使われる事があるらしいけど、その場合資格の取得と定期的な検査が必要って話だな」


B「…………。」


A「当時でもある程度科学が進歩してたし、結局、魔法の代用品なんていくらでもあったんだよ。魔王や勇者みたいな規格外はあっちでも規格外だったみたいだし、死んだ人間を蘇らせたり不老不死になったりはあっちの世界でも御伽話の類で、科学と魔法にそこまでの差はなかった」


B「そう、ですか…」


A「まぁあって損なもんでもないし、ちょっと暮らしに便利が加わるよ。退院したら申請してみるといいさ」


B「はぁ…。夢のない世の中になったんですね。魔法やらファンタジーってもっと夢のあるものだと思ってましたよ」


A「そりゃそうだ。ファンタジーってのは空想や幻想って意味だからな。夢のある話で当然さ。ま、夢も叶えるまでの過程が一番楽しいって言うし、追いかけたり想ってる時が一番幸せなのかもな」

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