第18話 遠くの女子より目の前の女性

「それじゃあ先輩方、また後で」


「じゃあねーお兄さん達」


「早く着替えて遊ぶのです!」


「慌てない慌てない。時間はたっぷりあるから」


 今日はみんなでスパリゾートにやって来た。受け付けを済ませ着替える為に男女で別れる。


「準備完了。いざ!桃源郷へ!」


「早いな」


「家で水着を着てきたからな!」


「小学生かよ」


 ちゃんと下着持ってきてるんだろうな?というか女子と違って男子の着替えなんて大して時間かからないだろうに。


 夏川に呆れつつ俺も水着に着替えてスパリゾート内へ。当たり前だが女子陣はまだいなかった。


「良い所だな!無料券を当てた氷上には感謝だ!」


「そうだな」


 俺達の目の前にはプールやら温泉やらが広がっており、一日中遊べそうだ。


 さて、こういう時女子と遊びに来ている男子は女子の水着を期待してソワソワワクワクしながら待っているのだろうが…。


「おっ!見ろよブラザー!綺麗な巨乳の姉ちゃんが大勢いるぞ!」


「ほう?女子大生の団体か?今日遊びに来たのは当たりだったな」


 俺達は一緒に遊びに来たまだ姿の見えない女子達ではなく、目の前の女性達に意識が向いていた。遠くの女子より目の前の女性。当たり前だよなぁ?


「何が当たり前ですか。失礼な先輩達ですね」


「流石にこれは少しイラッとするね」


「なんっ⁉︎」


「うおっ⁉︎」




 バシャーン!×2




 後ろから声がしたと思ったら俺と夏川は背中を押されてプールに落ちた。何をする。


「いきなり何しやがる!驚くだろうが!」


「そうだそうだ!目の保養を邪魔しやがって!」


 プールから顔を出して俺達が抗議しても氷上と吉崎は呆れ顔だった。


「先輩達が一緒に遊びに来た私達をほっといて巨乳のお姉さん達に夢中だからじゃないですか」


「目の前に巨乳の姉ちゃんがいれば目が行くのは男として当たり前だろうが!」


「いや、そんなにはっきり言われても…」


 夏川が力強く宣言する。その声が聞こえたのか近くにいた男性達は頷いているが、女性達は白い目を向け離れていく。


 まだなんか言ってる夏川を置いてプールから上がる。水に濡れて垂れてきた髪を後ろに跳ね除けていると氷上達が寄ってきた。


「夏川先輩は相変わらずですね…。ところで一緒になって巨乳のお姉さんを目で追っていた先輩、私達に何か言うことは?」


 言葉にトゲがあるが何かを期待するようにこちらを見る氷上。ここで察せないほど鈍感ではない。


「その水着よく似合ってるぞ。氷上も吉崎もな」


 氷上はフリルが着いた白のビキニ。吉崎は水色のビキニでパレオを巻いている。


「よく似合ってるが結構大胆な水着だな」


「せっかくですからちょっと攻めてみました」


「あはは…あんまりマジマジと見られると恥ずかしいかも」


 水着姿なんて滅多に見られないから新鮮だ。というかやっぱりこいつらレベル高いな。


「そういや彩音と小唄ちゃんはどうした?」


「あの二人はトイレ寄ってくるって。混んでるのかな?」


「まあ人多いしな」


 そこまで話したところでようやく夏川がプールから上がってきた。そうして氷上と吉崎に目を向けて最初に言ったことがこちら。


「バカなっ!吉崎と氷上の胸のサイズにあまり差がないだと⁉︎氷上は着痩せするタイプだったのか⁉︎」


 プールから上がってすぐに夏川はプールに蹴り落とされた。




__________________________




「いや、貧乳だと思ってた奴が意外と大きかったら驚くじゃん?パッド?」


「遺言はそれでいいですか?」


 再びプールから上がってきた夏川が言い訳をしている。今度は沈められそうだ。


 夏川がプールから上がってこれないように重りを探している氷上の胸元に目を向けてみる。確かに氷上を宥めている吉崎と比べてあまり差がないように見える。だがよく見ると……?


「……そういや白って膨張色だよな?」


 ふと思いついたことが口から溢れた。その呟きが聞こえたのか夏川を沈めようとしていた氷上の動きが止まる。


「なるほど……確かフリルが付いた水着を着ると実際より大きく見えるとも聞いたことあるな」


 同じように俺の呟きが聞こえた夏川が思い出したように考えを口にする。つまり?


「目の錯覚か…」


「うるさいですよ先輩方!というか男のくせになんでそんなこと知ってるんですか⁉︎」


 俺達が可哀想なものを見る目で氷上を見ていたら氷上が声を荒げた。なんで知ってると言われてもな…。


「「漫画で読んだ」」


「くっ!いらん知識を…!」


 漫画や小説を呼んでるといろんな知識が身につくよね。主に雑学だけど。






「お兄さん達お待たせー!」


「遅くなって申し訳ないのです!」


 ご機嫌斜めになった氷上を三人で宥めているとようやく彩音と小唄ちゃんがやって来た。


「なんだその水着のチョイス…」


 やって来た二人を見て思わず頭を抱えた。可愛らしいピンクのワンピースタイプの水着を着ている彩音はいい。問題は…。


「?何かおかしいのです?」


「ここが小学校ならおかしくないんだがな」


 小唄ちゃんは何故かスクール水着だった。ご丁寧にゼッケンで名前も付いている。しかも平仮名だ。拘りを感じる。


「甘いのですおにーさん!これは小学校で着ている水着とは別物なのです!小学校で着ているものにゼッケンは付いていません!」


 そう言って胸を張る小唄ちゃん。あえてのこのチョイスらしい。


「な、なんでその水着を選んだの?」


 そう問いかける吉崎も動揺しているようで若干引いている。


「じゅよーときょーきゅーなのです!普通の水着よりこっちの方がじゅよーがあるのです!」


「そ、そう…」


 どこでそんなことを覚えてきた。需要があるのはロリコンに対してだけだろう。


「うむ!よく分かってるじゃないか!やはり小学生は最高だぜ!」


 お巡りさんこいつです。


「ま、まあみんな揃ったんだし遊ぼっか?」


 顔が引き攣ってる吉崎がみんなを促す。まあいいや。小学生がスクール水着を着ているのは普通のことだ(思考放棄)。


 先導する吉崎に着いて行こうとしたら腕を引かれた。目を向ければ何やら不満そうな彩音が。


「お兄さん私の水着にはなんかないの?」


 スクール水着に気を取られて彩音を放置していた。おっと、小さくても立派なレディだ。ほっとくのは申し訳なかったな。


「その水着よく似合ってるぞ」

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