第17話 いつか懐かしく思う日が来る

 俺達が高校生になって早数ヶ月。夏の暑さに気が滅入る頃になると中学に比べて難しくなった勉強や新しい人間関係にも慣れてきた。それでも相変わらず氷上や彩音、小唄ちゃんとはよく遊ぶ。




「スパリゾートに行きませんか?」


 いつものメンバーで人生ゲームin夏川家をしていたら唐突に氷上がそんなことを言い出した。


「いきなりどうしたんだ氷上?変な電波でも受信したのか?病院行く?」


 ルーレットを回しつつ氷上の頭を心配する。5、出た数字に従ってコマを進める。友人が病気になった。左隣の人に一千万お見舞い金を渡す。


 頭の病気は一千万で治るのだろうか?そんなことを考えつつ左隣の氷上に一千万渡す。


「私は正常です。遊んでて忘れてましたけど元々誘うつもりでしたよ。これを見て思い出しました」


 そう言って氷上は先程手に入れたプール付きの豪邸を指差す。順調に勝ち組人生を送ってんな。


「泳ぎたくなったのか?流石にプールはウチにないぞ?」


 夏川が勢いよくルーレットを回す。夏川家は金持ちだが流石にプールはない。


「いえ、昨日商店街で福引きをやっていたので引いてみたら無料券が当たったんですよ。ですからみんなで行きませんか?」


 そう言えば商店街で買い物した時に券をもらった気がする。枚数足りなくて引いてないけど。


「瀬奈お姉さん運がいいんだねー」


「私もこの前引いてみたのですがティッシュしか当たらなかったのです…」


 小唄ちゃんは引いてみたらしいがハズレだったらしい。


「私達でいいの?日頃の感謝の気持ちとしてご両親にプレゼントすれば喜ばれるんじゃない?」


 吉崎が小唄ちゃんを慰めながら疑問を口にする。確かに社会人は俺達なんかより疲れも溜まるだろうし、リフレッシュできるスパリゾートは喜ばれるだろう。


「私もそう思ったんですが…」


 氷上が不機嫌になっている。氷上は側から見ればほとんど表情は変わらないが、普段から一緒にいる俺達には分かる。何かあったのか?





「気持ちは嬉しいが母さんと休みが合わないな…。せっかく五人まで無料なんだし瀬奈が友達と行ってきたらどうだ?そんなに友達がいればだけど(笑)」






「そんなことを宣った父にはビンタをプレゼントしたので問題ありません」


「「「「「………」」」」」


 なかなかファンキーな親父さんだな。というか親にもボッチだと思われてんだな。


「あはは…。そういうことなら行かせてもらおうか?みんな予定は大丈夫?」


 吉崎が空気を変えるように各自の予定を確認する。みんな特に予定はないようでいつ行くかはすんなり決まった。ただ他にも決めることはある。


「行く日はそれでいいとして無料券は五人までなんだろ?ここには六人いるが誰かハブる?夏川?」


「おいっ!流石のオレも泣くぞ⁉︎」


「冗談だよ。無料券を提供してくれる氷上や小学生二人に払わせるのもあれだし、俺と夏川と吉崎で割り勘すればいいか?」


 三人で割れば大した額にはならないだろう。なんなら俺と夏川だけでもいい。


「私達もお金出すよ?」


「そうなのです!いつもいろいろもらってばかりで申し訳ないのです!」


 気にしなくてもいいのに小学生二人が金を出すと言う。いや、小学生に払わせるのはちょっと。


「もう一人分は私が出すので気にしなくていいですよ?正確には私の父ですが」


「いや、無料券を譲ってもらったのに更に金を出させる訳にはいかんだろ…」


「本当に気にしなくていいですよ?父が言い出したことなんで」


「親父さんが?なんて言ってたんだ?」






「五人分じゃ足りない?もし本当に友達が五人以上いて無料券が足りないというならその子達の分は私が出そうじゃないか。瀬奈にそんなに友達がいればだけど(笑)」




 


 氷上が見栄張って友達がたくさんいるって嘘ついているとでも思っているのだろうか?


「そんな訳でお金に関しては気にしないでいいです」


「あっ、ハイ」


 氷上の言葉に頷く。こんな時どんな顔をすればいいのだろうか?笑えばいいのか?


「……それでですね、私に友達がいるって父に証明する為にみんなで写真を撮りたいのですがいいでしょうか?」


 俺がどう反応していいか悩んでいると氷上がこちらを伺うようにして写真を撮りたいと言ってきた。


「もちろんだぜ!なあみんな!」


「そうだね。それくらいお安い御用だよ」


 氷上のお願いに夏川が即答し吉崎が同意する。そういや今まで一緒に写真を撮ったりすることはなかったな。



 そんな訳で写真を撮ることになった。夏川家のお手伝いさんを呼んで写真を撮ってもらおうとしたのだが…。


「ハル、もうちょいそっちに行ってくれ。オレが真ん中になれない」


「お前がもっとそっちに行け。俺が真ん中だ」


「こらこら、喧嘩しないの」


「というか私の家族に見せる物なので私が真ん中では?」


 俺と夏川が真ん中を取り合って吉崎が仲裁したり氷上が自分が真ん中だと主張したり。


「どんな風に写ろうか?」


「こんなポーズはどうなのです?」


 彩音と小唄ちゃんがオリジナリティを出そうとポーズを考えたりして無駄に時間がかかった。


 普通に並んでいる写真も撮ったのだが、そうやってわちゃわちゃしている俺達をお手伝いさんがいつの間にか撮影していた。


 今は何枚か撮ってもらった写真をみんなで見ているのだが…。


「並んで写っている写真はなんかの記念ならいいが友達との写真って言うなら自然体の方が良くないか?」


「だからってこれとか顔が写ってねぇぞ」


「うっ…このポーズはかっこいいと思ってたけどこうやって見るとダサいのです」


 写真に写っている俺達はカメラのことを気にしないでバカをやっているのがほとんどだ。この中から氷上の親父さんに見せる写真を選ぶの?


「まあ全部見せてもいいのですが、あえて一枚だけ選ぶならこれが一番良いですね」


 氷上が一番気に入ったのはみんなが撮られていると気付かないで彩音と小唄ちゃんが笑いながら変なポーズをとり、俺と夏川が互いの顔を押しのけているのを微笑んでいる吉崎といつもより柔らかい表情をしている氷上が眺めている写真だった。


「あっ、いいねその写真。全員いい顔してるし」


「正気か吉崎?お前達はともかくオレとハルは互いの顔に手をやってるから顔が歪んでるんだが?」


「お兄さん、私もこの写真欲しい!」


「後で焼き増ししてもらうか」




 未来のことは分からないが、いつかこの写真をみんなで見て今日のことを懐かしく思う日が来ればいいと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る