第19話 お手軽ナンパ撃退術()

「そお〜れっ!」


「とうっ!」


「きゃっ!」


「わぷっ!」


 照りつける太陽の下、水着姿の女の子達が水を掛け合いキャッキャッウフフしている。半分が小学生とはいえ全員が整った容姿をしているので実に麗しい光景だ。


 その辺の男達なら思わず目が奪われそうな光景だがそれを眺める男達の中に俺と夏川の姿はない。


「うおおおおおおおぉぉぉっ!」


「負けるかあぁぁぁぁぁぁっ!」


「わっ⁉︎なんだあの二人⁉︎」


「速っ⁉︎」


 俺達は遊んでる女性陣が遊んでいるとは少し離れた所にある競泳プールで競争していた。


「ッシャアッ!俺の勝ちだブラザー!後でジュース奢ってくれよな!」


「クソッ!夏川に負けるとかなんたる不覚っ!」


 プールの端から端まで競争して負けた方がジュースを奢るという賭けをしたが少しの差で夏川に負けてしまった。やはり夏川はスペックが高い。


「さて、勝負も終わったことだしさっさと女性陣と合流しようぜ!」


「お前が勝負をふっかけてきたんだろうが」


 特に意味もなく勝負をした俺達はプールを上がり、女性陣の下へ向かう。その場のノリで生きてんな。(他人事)


 人がそれなりにいるが小学生二人を含む女子四人組などそうそういる訳もなくすぐに見つけれた。見つけれたのだが……。


「可愛いねえ〜君達。どう?俺達と一緒に遊ばない?」


「そうそう!せっかく遊びに来てるのに女子だけじゃもったいないって!」


 氷上達はチャラそうな男達にナンパされていた。


「こんな所でナンパなんて迷惑な奴らもいたものだな!」


「お前も少し前にナンパしてただろうが」


 夏川がナンパ男達に呆れた視線を送るがお前も同じことやっていたじゃん?自分のことを棚に上げるなよ。


「他人事のように言うけどハルも一緒だったじゃん」


「俺は立ってただけで声をかけてないからセーフ」


 そんなことを話しながら近づいていくと俺達に気付いた吉崎が手招きをする。


「ごめんなさい。彼氏がいるのでナンパはお断りしますね」


 そう言って俺の腕に自分の腕を絡める吉崎。今までに何度もナンパされたことがあるのか手慣れた様子だ。


 水着で密着してると肌の柔らかさをダイレクトに感じられるなあ。


「彼氏がいたのか…。君はどうだい?このカップルは放っておいて俺達と遊ばない?」


 ナンパ男達は俺の腕に抱き付いている吉崎を見て残念そうな顔をするが、すぐに気を取り直して氷上に声を掛けた。


「私も彼氏がいるので断ります」


 そう言って氷上は俺の空いている方の腕に自分の腕を絡めてきた。やったね!両手に花だよ!(棒)


「は?君の彼氏もこいつ?二股かよ!」


「マジかよ!なんてうらやま…もとい、酷い奴だ!」


 ナンパ男達が荒ぶっている。心なしか騒ぎを見物していた人達からの視線も冷たく感じる。


「くっ!お嬢ちゃん達はどうだい?お兄さん達と遊ばない?ご飯も奢ってあげるよ!」


 ナンパ男は何をとち狂ったのか彩音と小唄ちゃんをナンパし始めた。吉崎と氷上がダメだったからって小学生をナンパするなよ…。


「彼氏がいるからヤダ」


「私も彼氏がいるからお断りするのです!」


 そう言って彩音と小唄ちゃんは正面から俺に抱き付いてきた。はっはー!モテ過ぎて困っちゃうぜ!(白目)


「なん…だと…⁉︎」


「まさか小学生二人にまで手を出しているとは⁉︎」


 出してねぇよ。これ大丈夫?小学生にまで手を出しているハーレム野郎って思われてない?周囲の視線がヤバい。


「ちょっと待てよお前ら。いくらなんでもこれは…」


「しっ!今から路線変更するよりこのまま押し切っちゃった方が穏便に済むと思うよ」


「穏便かこれ?」


 文句を言おうとしたら吉崎がナンパ男達に聞こえないように耳元で囁いてきた。耳元に口を寄せて来たのを見て何を勘違いしたのかナンパ男達が騒ぎ出す。


「クソッ!見せつけやがって!このハーレム野郎がっ!」


「テメーなんか逮捕されちまえロリコン!」


 ナンパ男達はそう悪態をついて去って行った。


「あの人達しつこく言い寄ってきて困ってたんだ。ありがとねハル」


「その代わりに俺の評判がエラいことになった気がするんだが?」


「お兄さん大変だねー」


「お前も原因の一人だからな?」


「痛い痛い!」


 他人事のように言ってくる彩音の頬を引っ張る。いや、実際にこいつにとっては他人事なんだろうけど。腹が立つのでお仕置きだ。


「どうでもいいけど一人くらいオレの方に来てくれてもよくない?」


 俺と一緒に来たのに今まで空気になってた夏川が口を挟む。


「嘘でも夏川君を彼氏って言いたくないから?」


「夏川先輩が彼氏なんてお断りです」


「酷いなお前ら!」


 吉崎と氷上にはっきり言われて夏川が凹んでいる。


「クソッ!オレも胸の感触を感じたかったのに!」


「そういうとこだぞ夏川」


 口に出さなければセーフ。あと表情にも。態度に出さないが俺はしっかりと柔らかさを感じました。


「つーかなんで彼氏なんて言ったんだ?男の連れがいるでいいだろ?」


 俺の方に話が振られる前に話題を逸らす。彼氏の方が説得力あるのかもしれないがグループで来ている時点で大差ないだろうに。


「ノリで?」


「ノリかよ」


 ノリでロリコンのハーレム野郎にされたのか俺は。まあ他人からの評価なんてどうでもいいか。


 溜め息一つ吐くが特にそれ以上何かを思うことなく再び遊ぼうかと考えたところで悪戯を思いついたような表情をした吉崎が囁いてきた。


「彼氏が不満なら旦那とか夫のほうがよかった?ちょうど子供もいるし」


「ブフッ!」


 吉崎が彩音と手を繋ぎながらそんなことを囁いてきたので思わず吹き出してしまった。いくらなんでもそれはないだろ。抗議しようとしたところで彩音に手を握られる。


「パパー早く遊ぼー?」


「待て。頼むから待て」


 からかうような笑顔で俺をパパと呼んだ彩音は俺と吉崎の手を握ったままプールを目指す。左右の手でそれぞれ父と母の手を引っ張る満面の笑みを浮かべた小学生というのは微笑ましいものだろう。それが本当の両親ならば。


 彩音に引っ張られながら周囲を見回すが通報してそうな人はいない。助かった…。





 この後めちゃくちゃ遊んだ。

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