第6話 王様ゲームは闇のゲーム

「お兄さん達、王様ゲームやらなーい?」


「王様ゲーム…だと…⁉︎」


「正気か彩音⁉︎」


 彩音と一緒に夏川たちと遊んだ日から数日後、再びその時のメンバーで集まったら何を思ったのか彩音が王様ゲームをやろうと言い出した。無邪気にそんな提案をする彩音に夏川と俺は恐れ慄いた。


「えっ…何その反応?」


「王様ゲームがどうかしたんですか先輩達?」


 そんな俺達の反応に吉崎や氷上も戸惑っている。


「ふっ、ボッチの氷上は王様ゲームを知らなヘブッ!」


 あっ、夏川がしばかれた。自分でボッチと言うのは良くても人に言われるのは嫌らしい。


「それで?なんで王様ゲームって聞いてそんな反応してるの?」


「オレがしばかれたのはスルーか…」


 それはいつものことだし。


「むしろなんでお前達はそんなに反応薄いんだ?」


「えっ?そう言われても……王様ゲームってクジを引いて王様になった人が命令するあれだよね?」


 吉崎が首を傾げつつ答える。


「そう!王様ゲームとは一見すると王様が好きに命令できるゲームだが、命令が簡単過ぎると白け、逆に難し過ぎると「そんなこと出来るか!」とキレられる!そしてたとえ同じ命令でも人によって反応が変わる!」


「そうなんですか?」


「例えば女子が仲の良い女子にパンツの色を聞かれても軽く流せるけど、大して仲が良い訳じゃない男子に同じこと聞かれたらしばき倒すだろ?」


「分かりやすいですけどなんでその例えにしたんですか先輩?」


「実際にあったから」


 あれは酷い事件でしたね…。


「今の例えはちょっとあれだが……他の命令にしても仲の良い奴にされるのとそうでもない奴にされるのとじゃ許容範囲が変わるだろ?つまり命令した時の反応で好感度が分かる!その為仲が良いつもりだったのに相手はそう思ってなかったり、犬猿の仲かと思ったらただのケンカップルだったことが判明したりとかで人の内心が浮き彫りになる!さらには命令によっては好感度が一気に下落するなどして人間関係が阿鼻叫喚と化すまさに闇のゲーム!」


「軽過ぎず重過ぎず場を白けさないような命令を考えてこれくらいなら大丈夫だろって思って命令するんだが、狙った奴と別の奴に当たると夏川が言ったようになる。王様は王様でも大国の顔色を伺う小国の王様になった気分になれるゲームだな」


「私の知ってる王様ゲームと違う…」


「大袈裟じゃあ…」


「先輩達は今までにどんな目にあったんですか…?」


 女性陣がドン引きしてますね。


「まあ確かにあまり仲の良くない人達とするとそうなるかもね。遠慮がいらない仲の人達とする方が楽しめるよ」


 クラスの人気者で今までに何度も王様ゲームをしたことがありそうな吉崎がそうフォロー?を入れてくる。だが…


「何を言ってるんだ吉崎。遠慮がいらない奴等とやったらそれこそとんでもないことになるだろ。というかなった」


「えっ?」


 俺の返しに虚を突かれたような反応をする吉崎。彩音や氷上も似たような反応だが、夏川は遠い目をしている。俺も似たような目をしているだろう。


「あれはまだ俺達が中学生の頃のある日の放課後、暇な男子十数人と教室で駄弁っていたんだが、何を思ったか王様ゲームをやろうと言い出した奴がいたんだよ。それですることもなかったしやることにした」


「どうでもいいですけど男子が十数人集まって王様ゲームって絵面を想像したら酷いですね」


「黙らっしゃい。それで最初のうちは腕立て百回とか焼きそばパン買ってこいとか屋上でアニソン熱唱するとか教頭先生に「教頭先生、ヅラがズレてますよ」って耳打ちするとか大した事ないものばかりだったんだよ」


「大した事……ない?」


「大した事あるものが混じってますが…」


「そうだよな。学校を抜け出してコンビニまで走ったり、アカペラで歌うのは少し辛かったよな」


「それじゃなくて、いや、それも大変だろうけど教頭先生って厳しい人だったよね?確かに偶にカツラがズレてる時があったけど先生達も指摘出来ない人だったでしょ?」


「耳打ちくらい大した事ないだろ?他にもっとすごいことしたし」


「すごいこと?」


「命令を思いつかなかった奴等が似たような命令ばかりだしてな。教頭先生に向かって「ヅラだっ!」って指差して叫ぶ、教頭先生のヅラをズラす、教頭先生のヅラを強奪するってどんどんエスカレートしていった」


 あの日は教頭先生大人気だったな。


「怖い物知らずですね…」


「男子ってすごいんだねー」


「彩音ちゃん、別にすごい訳じゃないから。それにそんな事するの一部の男子だけだから誤解しちゃダメよ?」


「だってよ、一部の男子」


「ははは。オレがやったのは「ヅラだっ!」って叫ぶのだけだ。それにハルだって王様に命令されたらやってただろ?」


「そりゃもちろん。王様の命令は絶対だからな」


「「ははは!」」


 朗らかに笑い合う俺達を女性陣は引いた目で見てくる。そんな目で見るなよ。もっとすごいこともしたんだから。


「とまあこんな感じで王様ゲームをしてたんだけどどんどんエスカレートしていってな。後半は羞恥系かシャレにならんものばかりになった」


「シャレにならんってどんなことしたの?」


「例えばそうだな…」


 当時の命令がいくつも頭を過ぎる。


「異性に告白。ただし嘘告白は相手に悪いから本当に好きな相手に真剣に告白する」


「ちょっ…⁉︎そんなことまでしたの⁉︎」


「そして実行した奴はフラれた」


「ええ…?実行したんですか?」


 したぞ。体育館裏に呼び出して「好きです!付き合ってください!」ってシンプルかつ大胆に告白してた。結果は残念だったが…。


「ちなみにその後そいつが王様になった時に泣きながら「お前等も同じ目に合え!」って同じ命令をしたんだが、次に実行した奴は告白が成功して付き合うことになった。ああ、告白した相手は最初の人とは別人な」


「また告白したの⁉︎しかも成功したの⁉︎」


 告白した後に嬉しそうに戻って来たそいつは舌打ちされたり、背中をバシバシ叩かれながらも祝福された。命令した奴はいろんな意味で大号泣してたが、一番祝福してたように思う。


「前から好きだったんだけど告白する勇気はなかったんだ。きっかけを作ってくれてありがとう!」って言われた俺達はなんとも言えない気持ちになったものだ。ただの悪ノリだったし。


 そんな風に当時を思い出していると彩音が言った一言で現実に戻された。


「ところでお兄さん達はどんな命令を受けたの?」




 ええ…それ聞いちゃう?

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