第7話 良い子のみんな〜!こ〜んにちは〜!
「お前今までの話を聞いてよくそんなこと尋ねられるな?」
「えー?気になるじゃん?」
気にするなよ。黒歴史を思い出して胸が痛くなる。
「ハルはあれだな!体操のお兄さんが最高だったな!」
「体操のお兄さん?」
「幼い頃教育番組で見たことないか?体操のお兄さんとか歌のお姉さんとか」
「おいバカやめろ」
記憶の奥底に封じ込めた忌まわしい黒歴史を思い出させるんじゃねぇ!
「確か動画を撮っていたはず…」
「ほんとやめろお前!」
動画を探している夏川からスマホを奪おうとしたら彩音が抱きついてきて止めやがった。ふざけるな。
「ちょっ⁉︎どけ彩音!俺は夏川のスマホを破壊しなくちゃならないんだ!」
「気になるからやだ!」
「まあまあ、落ち着いてください先輩」
「そうだよ、危ないから落ち着いて」
彩音を振り払おうとしたら氷上と吉崎がニヤニヤしながら俺の腕を押さえやがった。
「お前等まで邪魔すんのかよ⁉︎離せ!」
「まあまあ、女の子に囲まれてハーレム状態だからいいじゃないですか」
「そうそう、両手だけじゃなくて正面にも花があるに嫌がらないでよ」
三方向から女子に囲まれるなんて贅沢かもしれないが今は嬉しくない。クソッ!なんか柔らかいし、いい匂いはするしありがとうございますっ!
「あったあった、これだ」
そして時間切れのお知らせ。
「おまっ!マジでやめろ!」
そんな俺の願いも虚しく動画は再生された。
「体操の〜ハルお兄さんだよ!良い子のみんな〜!こ〜んにちは〜!」
「「「「…………」」」」
「あれあれ〜?どうしたのかな〜?もう一度いくよ〜?良い子のみんな〜!こ〜んにちは〜!」
「「「「ぎゃはははははははは‼︎」」」」
「イヤアアアアアアアアッ!」
動画の中の男子達の笑い声と俺の悲鳴が部屋に響き渡る。なんで動画撮ってんだよ…。
「くふふ。最高でしたよ先輩」
「ふっ……ふふっ。わ、笑っちゃダメだよ瀬奈ちゃん…」
「そういう真白先輩こそ笑うのを抑えられていませんよ」
「お前等覚えていろよ」
未だに掴んだままだった俺の腕に顔を押し付けて笑い声を抑えようとして抑えられていない氷上と吉崎。仕草はかわいいのに憎たらしいとしか思えない。
「お兄さんお兄さん」
「ん?」
どうやって報復してやろうか考えていると彩音が俺の服を引っ張ってきた。なんだ?と視線を向けるとそこには満面の笑みを浮かべた彩音がいた。
「良い子のみんなー!こーんにちはー!」
俺は膝から崩れ落ちた。
それから少しの間メンタルブレイクして部屋の隅に座り込んでいた俺だがなんとか復帰した。
「痛い痛い!お兄さん、ごめんってばー!」
彩音にお仕置きはするけど。
「いやーこの動画は何回見ても笑えるな!」
「消せよ。いやマジで」
「やだよ。バックアップもとってあるし」
「ちっ!俺も何か動画を撮っておくべきだったか?」
そうすりゃ交換条件で消せたかもしれないのに。
「ちなみに先輩達は他にどんなことをしたんですか?」
「夏川は校庭の中心で愛(好きなAV女優)を叫ぶってのと上半身裸で隣の教室に突っ込むだったか?」
「ハルはなんだっけ?逆立ちで廊下を往復するのと初恋の相手(二次元限定)を晒すだっけ?」
「ほんとロクなものありませんね…」
呆れている氷上の隣で吉崎が何かに気付いたように声を上げた。
「あっ!そういえば男子が何人も奇行に走ってるって噂になった日があった気がする」
「長いことやってたし目撃者もいるわな。復讐するまでやめる気なかったし」
「復讐?」
「さっきどんなことさせられたか説明したろ?あんなことさせられれば命令した奴に復讐したくなるもんさ」
十数人でやってたからなかなか狙った奴に当てられなかったけど。
「諦めねぇ…絶対に復讐してやるからな!って当時は思ってたからな。どれだけ関係ない奴に誤爆したとしても」
「……それって泥沼になるのでは?」
「よく分かったな。最初に狙ってた奴に当たる頃には別の奴らを恨み、また恨まれた」
「ええ…」
復讐が復讐を呼び、終わらない負の連鎖と化したからな。
「命令を拒否する人はいなかったのー?」
「そんなことをすればせっかく狙った奴に当たったとしても拒否されるだろ。一人が拒否すればみんな拒否するだろうからな。全員ちゃんと実行したぞ」
そのせいでさらに泥沼化した気がしないでもない。拒否しそうな奴もいたが「おいおい、俺達はちゃんと実行してんのにお前は拒否するのか?それならそれでいいよ。お前には難しかったかな?」って煽られると「できらぁ!」って挑発に乗っていた。
結局下校時刻を過ぎて教師にさっさと帰れって言われるまで続けた。それ以来当時のメンバーの中では王様ゲームは闇のゲームとしてタブーになっている。
「男子ってバカばかりなんですかね?」
「あはは…否定出来ないかな?」
「面白い人達ばかりなんだねー」
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