第3話 共通の話題があると仲良くなるのは早い

「それじゃあ行って来るわね」


「食事は出前を取るなり、外食するなり好きにしていいからな」


「彩音をお願いね、晴樹君」


「いい子にしてるんだぞ、彩音」


「いってらっしゃーい!」


「ほんとに行くのか…」


 ある日の朝、出かけていく四人に手を振り笑顔で送り出す彩音になんとも言えない顔で見送る俺。ことは昨日の夜に遡る。





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「そういやハル、言ってなかったけど明日から私達とお隣のご夫婦は町内旅行で数日いないから。その間彩音ちゃんを一人にするのもあれだしウチに泊めてくれって頼まれたから了承したわよ。あんた面倒見てあげなさい」


「は?」


 町内旅行に行くなんて初耳なんですけど。前日の夜に言うなよ。俺に予定があったらどうするつもりだったんだ?何もないけど。


「別に泊めなくてもよくない?そもそも隣だろ?」


「世の中何があるから分からないでしょ?彩音ちゃん可愛いし変質者に襲われたらどうするのよ?」


「なら町内旅行に連れてけよ…」


「彩音ちゃんくらいの子供は誰もいないから連れて行っても楽しめないでしょ。大人と幼児しかいないし。つべこべ言わずに面倒見てあげなさい」


「へいへい」





 そんな会話を昨日の夜にしたのだがまさか本当に彩音をウチに置いて町内旅行に行くとわ…。


「お土産期待してるねー!」


 俺の隣で呑気に手を振っている彩音を見て溜め息一つ。まあいつも通りに過ごせばいいか。



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 各々の両親を見送って早数時間。遊んでいたらそろそろ12時になろうとしていた。


「もうすぐ12時か。昼飯はどうする?出前を取るか?それとも外食にするか?」


 ちなみに自分で作るという選択肢はない。作れない訳ではないがめんどいので却下。


「ん〜せっかくだからどこかへ食べに行こうよ。お兄さんの奢りで!」


「はいはい、んじゃ行くか」


 ちなみに金は俺の両親と彩音の両親に貰っている。両親ズは割と甘い。





 外食は久しぶりなのかはしゃぐ彩音を連れてやってきました街の中。春休みだからか学生が多くいる。


「さて、外に出たはいいが何を食う?牛丼?ハンバーガー?ラーメン?それともコンビニ弁当?」


「何その選択肢…。女の子をエスコートする所じゃないよ。特に最後」


「やかましい。男が外食すると言ったらこんなものだ」


 俺の知り合いの女子達はこんなとこでも平気で着いて来るぞ。コンビニは除く。


「もうファミレスでいいよファミレスで。いろいろあるし」


「ああ、ファミレスという手もあったか」


 ファミレスは飯を食うというよりドリンクバーで長時間居座る為に行くというイメージだったから思い付かなかった。(迷惑な客)


 行き先も決まった所で向かおうとしたら声を掛けられた。


「あっ、先輩じゃないですか。こんな所で奇遇ですね」


 声のした方に目を向ければ腰まで届くような長い髪に整っているがあまり変わらない表情をしている少女がいた。彼女は俺の後輩の氷上瀬奈だ。学校ではクラスメイトのなどに話しかけられても素っ気ないことが多く、クールなキャラだと思われている。


「よう氷上」


「この間深夜まで遊んだ時以来ですね。こんな所でなにして…」


 そこまで言った所で急に言葉を切り動きを止める氷上。どうかしたのかと氷上を見れば、氷上の視線は俺の隣にいる彩音に向いている。


「……先輩、いくらモテないからって小学生に手を出すのは犯罪ですよ。どこから攫って来たんですか?」


「攫ってねーよ!隣の家の子を預かってんだよ!」


 ジト目の氷上に慌てて説明する。こんな人の往来でなんて事言いやがる。


「ええ、もちろん先輩を信じていましたよ。夏川先輩なら通報してましたけど」


 シレッとそんなことを言う氷上。相変わらず先輩に対する敬意が足りない。ちなみに夏川というのは俺の友人で……変態だ。


「ねーねー、この人お兄さんの知り合い?」


 俺達の会話を聞いていた彩音が袖を引きながら聞いてくる。


「後輩だよ」


「後輩の女の子と深夜まで遊ぶなんて一体どんなエッチな…って痛い痛い!」


「人聞きの悪い事を言うな。そもそも他にも人居たし」


「つまりらんこ…だから痛いって!」


 口の減らないクソガキの頬を引っ張り折檻する。どこでそんなこと覚えてくるんだ?


「今時の小学生はこれくらいのこと知ってるよ?」


「そうか、なら知識と一緒にそれを口に出さない倫理観を身につけてくれ」


 彩音の将来を心配しているとそんな俺達のやり取りを見ていた氷上が口を開く。


「仲良いですね。結局先輩達はこんな所で何をしているんですか?」


「俺達の両親が町内旅行で不在だからこいつとメシ食いに行こうとしててな。そう言う氷上は何してんの?」


「暇だったので特に目的もなく街中をぶらぶらしてました」


「……一人で?」


「一人で。知っての通りボッチなので」


「………」


 氷上は見た目はいいんだが無愛想な上に割と口が悪く、人に行動を合わせたりせず思うがままに動くので同級生から少し距離を取られている。イジメられたりはしないようだが。


「先輩達が卒業してしまったのでまたボッチになってしまいました。一人くらい留年してくれると思ったんですが」


「中学生はそうそう留年したりしねぇよ。いくらあいつらが問題児だろうとな」


「本命は先輩だったんですが」


「俺、夏川より下に見られてんの?」


 あの変態より下に見られるのは納得がいかん。俺は別に成績は悪くないぞ。あの変態もだが。


「先輩が私をあの集団の中に入れたんですから私をボッチにしない責任があると思うのですが?」


「いや、単に数合わせに連れて行っただけなんだが…」


 ある日の放課後、変態達と麻雀しようとしたが三人しか居らず、面子を探している時に一人で教室に居た氷上を見つけて引っ張ってたのが俺達の出会いだ。話を聞くと麻雀出来るって言ったし。


 ちなみにその時は変態が役満を決めて煽ってきたのでリアルファイトになり、騒ぎを聞きつけてやってきた教師に見つかって説教されました。俺と変態だけ。解せぬ。


 それ以来遊ぶ時に氷上をちょくちょく呼んでいたら馴染んだのか割といつも連むようになった。


「責任って言われてもな…。まああいつらと遊ぶ時は呼ぶよ。前も呼んだろ?」


「ええ、桃○を99年耐久でやらされるとは思いませんでしたが。またリアルファイトしてましたし」


 あれは煽りに乗った変態が悪い。やっぱ友情破壊ゲーだよなあれ。


「まあ楽しかったのでいいんですが。ですのでこれからも誘ってください」


「もう瀬奈ちゃんったら寂しがり屋なんだからー!そんなに私達が卒業して寂しかったのー?」


「その口調ウザイです、先輩。今すぐやめて下さい」


 ちょっと茶化したら氷のような目で見られた。ジョークだって。


「お兄さんお腹空いたー。まだ話すならお姉さんも一緒にファミレスに連れて行けばいいんじゃない?」


 お腹空いたのか今まで黙っていた彩音が急かして来る。それもそうだな。


「という訳で暇なら氷上もファミレス行こうぜ。奢ってやるから」


 俺の金ではないけどな!


「……そうですね。ご一緒させていただきます」


「良かったねお兄さん。両手に花だよ」


「だからどこから覚えてくるんだ…」


 そんな事を言う彩音に呆れながらファミレスに向かった。



______________




「へーお兄さんって割と問題児だったんだー」


「ええ、ウチの中学校では夏川先輩と並んでツートップですね。よく騒ぎを起こして説教されてました」


「そうなんだ。それより敬語じゃなくていいよ?私の方が年下だし」


「いえ、これが私のスタンダードなので」


 メシを食い終わる頃には仲良くなったのかドリンクバーで淹れてきたジュースを飲みながら談笑する彩音と氷上。共通する話題ということで俺のことを話している。主に黒歴史。


「荷物検査で没収された物を取り戻す為に男子達を煽って職員室に突撃させたりもしましたね。何がどうなったのか最終的に夏川先輩と屋上からエロ本をばら撒いているのには言葉を失いましたが」


「もうその辺にしろ。これ以上俺の黒歴史を晒すな」


 あの時はどうかしていた。主に夏川が悪い。


 話を打ち切らせてファミレスを出る。無駄に疲れた…。


「それでは私はこの辺で。先輩、ご馳走様でした。彩音ちゃんもまた」


「またねーお姉さん!」


 去っていく氷上に手を振っていた彩音を連れて家に帰る。


「お姉さんきれいな人だったねー。いい人そうだし」


「まあな。見た目はいいし、慣れれば性格も悪くないって分かるんだがなー」


 若干人見知りなのか他人に自分から話しかけることはないし、話しかけられても積極的に話さない。親しくなれば普通に話してくるんだがな。口は悪いけど。


「そうなの?」


「まあお前とは俺という共通の話題もあったし、流石のあいつも小学生相手には言葉も選ぶだろ」


 俺にいろいろ飛び火したわけだが。よくも俺の黒歴史を晒してくれたな。次に遊ぶ時は容赦しねぇ。

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