もしかして最長寿流行語

 最近はほとんどテレビ番組を観なくなり、専ら動画サイトやラジオ等の音声コンテンツを娯楽にし、俄然「喋り」を愉しむ機会が増えたように感じている。


 人にはそれぞれ口癖があり、それが耳に付いて(何なら鼻に付いて)しまい、話の内容が入って来ない事がある。

 口癖は得てして語彙の貧しさと紙一重なところがあり、物を語る話者としてはデメリットが大きいのではないか。殊に、多くの人間が多用しているフレーズを事もなげに使うのは、百害あって一利なしと感じる。


 そんな口癖の一つに「やっぱり」がある。

 これはもう老若男女を問わず、どんな話題の中でもよく飛び出す単語だと思う。


 先日、阿刀田高・著『脳味噌通信』なるエッセイ本を読んでいたら、その中のトピックに「ヤッパリ考」というのがあり、《昨今とてもよく耳にする慣用句だ》と記されていた。

 この書籍の刊行は1983年。四十年近く前に既に『気になる口癖』として世の中に蔓延していたようだ。誠に息の長い、立派な国民的口癖だ。


 阿刀田氏の考察では――辞書には《“やはり”の意味として、“もとのまま。前と同様に。なお”》と記されているが、昨今の使い方は必ずしもこの用法に沿っておらず、《これから申し上げることは、みなさんも充分お気づきでしょうが、あえて申し上げると》というニュアンスで、《話し手がいかにも謙虚であるように響く》。《他人と同じ意見であることを好む民族》にとって使い勝手の良いフレーズだと締めている。

 確かに、四十年の星霜を経ても「やっぱり」は阿刀田氏の指摘通り使われていると感じる。


 一時期は「て言うか」に王座を奪還されたかに見えた「やっぱり」だが、全世代に押し並べて統計を取れば現在でもやっぱり「やっぱり」に軍配が上がるに違いない。「て言うか」は若年の口癖っぽいし、プライベートの時空間で使用される印象がある。比べて「やっぱり」はオフィシャルな時空間でも多用され易い他、省略形「やっぱ」の援軍もある。


 一方で、ライバルかも知れない「なんか」とは、今もデッドヒートを繰り広げている気がする。

 但し、「やっぱり、なんか」「なんか、やっぱり」などとコラボを見せる場面もあり、金持ち喧嘩せずの如き現状を感じなくもない。


 しかしながら、実はもっと最長寿流行語がある事を誰もが無意識レベルで体感している筈だ。

 それは、指示代名詞界に燦然と輝くレジェンド『あれ』。特に年配者の間では今この瞬間にも絶賛バズり中。やっぱり『あれ』を使いこなせるようになったら一人前のあれだ。

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