改めて『にも関わらず』考

 紙の本を読んでいて『にも関わらず』という表記にぶち当たった事は、現在までのところ、まだない(飽くまでも僕個人の読書体験)。

 もし紙の本にちらほら登場するようになったら、それはもう誤用が慣用的に許容された事を意味し、同時に『にも拘わらず』の敗北という事だろう。悪貨は良貨を駆逐するか。


 この文章を書いている時点での検索に拠れば、カクヨム内での現状は以下の通り。


『にも関わらず』1,252件

『にも拘わらず』25件


 因みに『にもかかわらず』は506件だった。端正な文章を書く人でもしれっと間違えている『にも関わらず』なのだ。


 何故こんな事になったのか。恐らくはテレビ番組のテロップの影響だろう。1990年代だろうか、番組内の発言が逐一画面に表示するようになったのは。限られた画面内に表示する為になるべく漢字表記する傾向があるようで(例えば『なかなか』を『中々』とする)。なので『にもかかわらず』ではなく『にも関わらず』にしてしまう。『拘』よりも『関』の方が日常的に目にする機会が多い事も理由かも知れない。


 こういう指摘をすると「言葉は生き物、変わって行くものなんだから」目くじらを立てるな」論を持ち出す人も居るだろう。

 しかしながら、例えば『汚職事件』を『御食事券』と書かれてすんなり許容するだろうか。明らかに意味の異なる漢字を当てるのはおかしい、という判断になろう。

 結局、その言葉の使用頻度によって誤記の許容度に影響が出るという訳か。「にも拘わらずだろうが、にも関わらずだろうが、そんなのどっちでも良い」と思う人が少なくないという事なのか。


 書き手のプロフィールに『誤字脱字の指摘は大歓迎』と書かれている事がよくある。「にも拘わらず、ですよ」と指摘して回ったらどうなるだろう。お節介な鬱陶しい妖怪〔ニモカカワラズ〕には関わるな、と御触れが出るだろうか。どんな割合でどんな反応をされるのか、少し興味がある。

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