ドキュメンタリーで「ウォーッ」
1981年に『NHK特集 わが青春のトキワ荘 -現代マンガ家-立志伝』というドキュメンタリーが放送された。僕は随分と後に再放送で観た(今は何処ぞの動画サイトで観られるようだ)。
言わずと知れたカリスマ漫画家達が暮らしたトキワ荘が取り壊される事になり、手塚治虫氏他の旧住人達が一堂に会する。このエピソードを中心に、現代(当時)の漫画事情や、嘗てトキワ荘の仲間だった元漫画家の日常等が活写される。
詳しくはその眼で確かめて頂くとして――この番組のヒリヒリするような冷めた感覚に引き込まれてしまう。
トキワ荘の漫画家の多くは勝ち組であり、だからこそ今に語り継がれているが、実は負け組も存在していた。一握りの勝ち組の蔭で、数多の負け組の物語が歴史に埋もれて行く。そういった現実を、決してエモい演出をせず、飽くまでも引いた視点で淡々と見詰める番組だった。
昔(昭和や平成前期)のドキュメンタリーは地味だった。本来は地味で良い筈だと思うけれど、あらゆるコンテンツがエンタメ化する中で、ドキュメンタリーもどんどん派手になって行ったように思う。
スタイリッシュな映像に大仰な効果音やBGM、何故かスタジオパートがあって「どうですか、○○さん」とタレントに感想を求める情報バラエティー的な枠組みが増えた。気が散って仕方がない。
同時に、再現ドラマ系が増えたようだ。勿論ドラマならば解り易く、人の目も引き易いだろうが、どうしても演出の余地が増え、登場人物が何かと漫画のように喜怒哀楽を表出したりして興醒めする。某公共放送のドキュメンタリーのドラマパートで松本清張(演:大沢たかお)に「ウォーッ」とか叫ばせるなんて……。
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