おかしいかしら
その昔、僕は小学生男子だった。
或る時、何の会話の途中だったか「○○かしら」と言った。その場に居た女子が「女の子みた~い」と笑った。
その時、僕は羞恥を覚えたかも知れない。「女の子じゃないやい」と反発心も湧いたかも知れない。その辺りの心境は朧気である。
が、実のところ、僕は意図的に「○○かしら」という言い方をしてみたのだ。
当時『ドラえもん』は愛読書だった。藤子不二雄作品は現在に至るまで好きである。『ドラえもん』の中で、のび太が何かのシーンで「○○かしら」と言っていた。勿論、僕も「女の子みたいな言い方だな」と感じてはいたが、大好きな作品内の口調を真似てみたかった。それが案の定、上記の醜態である。
他の藤子・F・不二雄作品の中にも、男性キャラが「○○かしら」と話す場面が散見される(藤子不二雄A作品にはあんまり出て来ない気がする)。僕は長らく不思議な感覚でそれを享受していた。
ネット時代になり、この辺りの謎は簡単に解けた。「○○かしら」は「○○かどうかは知らない」の意味。元々は「○○か知らず」という言い方で、江戸時代に「○○か知らぬ」「○○か知らん」に転じ、「知る」の意味が削げ落ち、明治以降は女言葉になったらしい。割と最近も「のび太の口調」として話題になった事があるようだが、僕は随分と昔から気になっていた。
タレントの伊集院光氏は、会話を聞いていると時々「○○かしら」と言う。他の有名著名人の中にこの言い方をする人を僕は知らない。彼は関東の落語家出身である。
そして、F氏は落語好きだった事が知られている。もしかしたら、古い言い回しが残る落語的な言語感覚なのかしら。
※補記※
『青空文庫』で戦前の小説を見てみると「かしら」「かしらん」が割りと出て来る。女性の登場人物も「かしら」だけでなく「かしらん」と話す描写がある。
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