敬語のお稽古

「先生がお話ししてくださいました」


 この文章が敬語の使い方として間違っていると、どれくらいの人が即答出来るだろう。因みに「しし」の部分は、送り仮名の「し」と、「して」の「し」が重なっているだけで間違いではない。


 間違いが含まれているのは「お話ししてください」の部分。文章を分解すると解りやすくなる。


 先ず「お話しして」と「ください」とに分け、終止形の「お話しする」「くださる」に変換する。


「お話しする」「くださる」は共に敬語であるが――


「お話しする」は「話す」の謙譲語(自分が謙っている)

「くださる」は「くれる」の尊敬語(相手を敬っている)


 ――もう気付いた人も居るだろう。


 先生に対して敬語を使っているのだが、謙譲語と尊敬語が混ざっている。

 正しくは、尊敬語「お話しになる」+尊敬語「くださる」=「お話になってください」になる。


 謙りながら敬う事だってあるじゃないか――確かに、心の中ではそんな状態もあり得る。が『言葉』と『想い』とではルールが違うらしい。


 同じ間違いを他の例文に当て嵌めると、もっとおかしさが際立つと思う。

「先生がお聞きしてくださいました」

「先生がお待ちしてくださいました」

「先生がお届けしてくださいました」


 更に、これなら直ぐに変だと解るだろう。

「先生がお伺いしてくださいました」

「伺う」が「行く」「聞く」の謙譲語なので、先生が自分に「伺う」のはおかしいとはっきり解る。


 個人的には、どうも「お話ししてくださいました」だけは違和感が薄いように感じる。なので、気が付かない人が多いのだろう。


 最後に、冒頭の文章を正しい敬語に直すと――

「先生がお話しになってくださいました」

 または――

「先生がお話しくださいました」

「先生がお話をしてくださいました」

 ――等となる。


 以上、校正のアルバイトをしていた時にこの問題にぶち当たり、最初は頭がこんがらかり、日本語は難しいと思ったというお話。

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