そろそろ異世界転生について語ろう

 いきなり衝撃的な結論から。


『異世界転生』の〈異世界〉は――〔異世界〕ではない。


 既に色んな方々が「異世界転生とは何か?」について書いておられる。「何故こんなに人気があるんだ」「どうして定型ばかりなんだ」「うんざりしている」等々、それらを読んで「ふむふむ、なるほど」と思う。

 

 でも、もっと抽象的なレベルで捉えてみたらどうかと思った。

 その方が本質に迫れそうな気がする。

 何れ考えが変わるかも知れないけれど、現時点で導き出した結論を書きたい。


『異世界転生』の〈異世界〉は――〔夢〕である。

 

『夢』という言葉は不思議な事に二つの意味を持っている(そういう言葉は他に幾らでもあるけれど)。

 願望としての『夢』。これは顕在意識で見るもの(仮に『顕在夢』と名付けよう)。

 寝ている時に見る『夢』。これは潜在意識で見るもの(仮に『潜在夢』と名付けよう)。


 ざっくり表現するとこういう事になる。面白い事に英語の『ドリーム』も両方の意味を有している。多分、儚いとか、目の前にある現実とは違うものとか、共通項があるので一緒にされているのではないかと思う。


 当たり前だが、人は通常『顕在夢』と『潜在夢』とを別物として考える。『顕在夢』はもしかしたら実現するかも知れないけれど、『潜在夢』は決して実現しない。正夢というのがあるが、それは偶々そうなったに過ぎないし、そもそも『潜在夢』は不条理なものが多く、そのまんま実現する事はない。

 因みに『潜在夢』の定義から「悪夢」は予め除外しておく(ここ、ポイント)。


 さて、先に『異世界転生』の〈異世界〉は〔夢〕であると書いた。〔夢〕は『顕在夢』と『潜在夢』とをごちゃ混ぜにしたものと考えて貰いたい。


 方程式にしてみよう。


〔夢〕=『顕在夢』+『潜在夢』=願望+不条理=〈異世界〉


 という解が導き出される。


 願望と不条理とがごちゃ混ぜになった世界で何が起きるかと言えば――

「無敵の存在だ!」

「モテて仕方がない!」

「日本語が通じる!」

 その他諸々のお馴染みの事柄(定型)が面白いくらい、恥も外聞もなく実現する。だって〔夢〕なんだからどんなに都合良くたって当たり前じゃん、なのである。


『潜在夢』(潜在意識)はコントロールが利かないが、『顕在夢』(顕在意識)と合体すればコントロールが利く。『顕在夢』を『潜在夢』で加工した〔夢〕=〈異世界〉なのだから、これはもう最強である。


 傍証として、例えば日常生活で見られるこんなフレーズ――

「夢みたいな事を言ってないで現実を受け入れろ」

「人の夢の話を聞かされる程、退屈なものはない」

――『夢』の部分に『異世界転生』を代入しても成立するではないか。


 そもそも『異世界転生』を創作物として捉えると見誤る。何故ならば『異世界転生』は〔夢〕だから。〔夢〕に既存の小説作法を求めるのはお門違い(パスティーシュ小説の一種と解釈出来なくもないが)。試練も、成長も、「人生ってそういうもんだよなぁ」みたいな感慨も要らない。


 この国で現実を生きて行く為にはもう『顕在夢』だけでは無理、『潜在夢』と融合させてやり過ごすしかない――そう感じている人達が『異世界転生』の需要を生んでいるのではないかと思う。


『終わらない夢』『出口のない夢』的感性って「オタク」差別が激しかった80年代から脈々と流れている気がする。今は「ヲタク」になって差別から解放されたように感じるけれど、差別感情自体が滅びる事は永遠にないと思う。

 もしかしたら、新たな差別の矛先として『異世界転生』が見出されたのではないかとちょっと薄ら寒い事を考えたりもする。差別感情は「理解不可能な奴がデカい顔をしていて目障りだ。もしかしたらこちらの領域まで侵食して来るのではないのか」と感じた時に生まれるものだから。何れ(または既に)AI小説にも矛先が向くだろう。


 という事で、『異世界転生』を読んだ事のない人間が想像だけで語ってみたというお話、一巻の終わり。

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