幻の短編
昔々或る所にミステリー系小説で編まれたオムニバス集(文庫版)があった。
誰もが知っているような有名作家から、少なくとも僕は知らない作家まで、何十編かの作品が収録されていた。
初めて手にしたのは、学校の図書室でだった。
昼休み、同級生の多くが徒党を組んで遊んでいるのを余所に、僕はそそくさと弁当を掻っ込んで図書室に入り浸っていた。少しでも読書の時間を確保したくて次第に早弁までするようになっていた。
松本清張、筒井康隆、小松左京、星新一、阿刀田高、その他、色々と読んだ。登下校の電車内でも読んでいた。思えば、最も読書をしていたのはあの頃だった。
ラノベとかファンタジーとか現在も隆盛を誇っているものには終ぞ縁がなく、その事がカクヨムでの肩身の狭さに繋がっているように思う。前記の作家達はもっと前の世代の方が馴染みがあった筈で、僕はスタートからして既に古かったのだ。
話が逸れた。
冒頭の短編集の中には所謂『奇妙な味』作品も含まれていた。僕は元々そういう作品に傾倒していて大好物だった。
短編集の中にこんな掌編があった(ネタバレを含む)。
主人公は何やら精神的に追い詰められている。その描写が一人語り(或いは三人称か)で延々と続く。最後の最後で、主人公が浅野内匠頭であり、これから松の廊下事件が起きる事が暗示されて終わる……という趣向の作品だった。
「そうだったのか!」という驚きがあり、とても印象に残った。時代劇や時代考証が好きだった事も影響していたかと思う。
以前、多分これだろうと思しき文庫本を手に入れたのだが、目当ての作品は載っていなかった。記憶している作品も多々あったので、同時期に読んでいた別の一冊だったのだろう。似たような別のオムニバスが存在しているに違いない。
――のだが、未だに見付けられないのは、もしかして夢で見た筋立てだったのか、自ら思い付いた話を誰かの作品だと勘違いしているのか、なんて思ったりもする。
タイトルも作者名も憶えていない短い小説(ショートショートの範疇かも知れない)。恐らくは1970年代後半から1980年代前半辺りに発表された作品で、収録されている本もその頃のものだと思われる。
◇◇◇
それからもう一遍、恐らくは仁木悦子という作家の手に依る短編だと思うのだけれど、オチに驚かされた記憶がある。
細かい部分は忘れたが、こんな内容(ネタバレを含む)。
我が子を殺された主人公(母親)が、犯人にも同じ思いをさせようと、犯人の子供(赤ん坊)を殺そうと計画する。描写の大半は、我が子が殺されるに至った経緯や怨みの感情等に費やされていたかと思う。最後に主人公は犯人の子供の顔の上で蹲る。主人公は猫だった、というのがオチ。
実際、猫が暖を取ろうと赤ん坊の顔の上で香箱を組んでしまい、赤ん坊が窒息死したという事件はあったらしい(現在もあるのだろうか)。それが発想のヒントのようだ。
この作家には『猫は知っていた』という代表作があるが、内容的にそれとは異なる(もしかしたらこのタイトルの影響でこの人の作品と思い込んでいる可能性もある)。
どなたかご存知ないだろうか。
※追記(2023.12.09)
上記の猫に関する短編は、カクヨム有志の方のお陰で、小泉喜美子『復讐は彼女に』である事が判明しました。
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