似作

『与作』の弟ではなく、勝手に作った造語『似作にさく』。

『盗作ではなく、偶然似てしまった作品』の意味。


 世の中には似作がごまんと存在する。

 インスパイア、オマージュ、パロディー、パスティーシュ等々、意図的に似せたり、発想の元になったりする事はあるけれど、本当に偶々似てしまう事はよくある。しばしば盗作騒ぎが起きるけれど、その中で「本当に盗んだ」ケースは何割くらいだろう。こればかりは当人が認めるか、裁判所が認めるかしない限り、真相は判らない。


 タイムマシンというアイディア(発想)がある。一応、H・G・ウェルズの小説『タイム・マシン』(1895年)が嚆矢という事になっている。

 今、作品中にタイムマシンを登場させても、それだけで「ウェルズのパクリだ」とは言われない。マシンの形状、特徴、使い方等々まで似通っていたら流石に「あの作品のパクリだ」と言われるだろうけれど、既に人類の共有財産と言って良いくらい説明を要しないアイディア(発想)だから、目くじらを立てる方が野暮というもの。


 そう言えば、ウェルズのタイムマシンは「時間は移動出来ても場所は移動出来ない」という設定があるようで、この発想は『大長編ドラえもん・のび太の恐竜』の中でも使われていた(白亜紀でタイムマシンが壊れた際、時間移動機能は活きているが空間移動機能が死んでいる為、先ずはのび太の部屋の机の抽斗の位置まで白亜紀世界を物理的に移動しなければならない)。

 これは藤子・F・不二雄氏がウェルズにオマージュを捧げたのかも知れない。

 そう言えば、氏の短編『流血鬼』はリチャード・マシスンの『地球最後の男』とそっくりと言われるが、更にアイデアを入れた(落ちを変えた)事で換骨奪胎したとも言われている。


 私が先に考えてたアイディアなのに、という事もよくある。僕自身にもある。カクヨムに投稿したものでも、タイトルが同じとか、アイディアが共通するとか、そういう作品を見付けて、うわ~と思ったりする。

 でも、最終的には先に発表した者勝ち。もしそのネタを先に考えていた証拠があったとしても(形にしていたとしても)、先に世に出した者勝ちなのだろう。でも、何だか悔しい。「こっちの方が面白い(筈だ)」と拗ねるしかない。

 松本清張氏は或るアイデアで構想している旨を公言した際、知らないアマチュア作家から「同じアイデアで先に書こうと思っているので、(貴方は)書かないで頂きたい」と言われた事があったらしい。清張氏は「そっちはそっちで書けば良い」と答えたとか。


 昨今、一部のジャンルではテンプレがのレベルで許容されているようだ。これはネット時代になってコピペが容易になった瞬間、半ば予見出来た未来かも知れない。

一般的に流行り物は廃れる。瞬間最大風速的に持て囃され、廃れたら見向きもさず、一部の作品だけが金字塔的な『名作』となる。『似作』が『名作』となる事もあるだろうが、稀だろう。

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