「しかない」考

 イチロー選手の引退記者会見(2019年)の中で「感謝の思いしかないですね」というフレーズがあった。僕の印象では、最も古い有名な「しかない」である。単に僕個人の記憶の範囲内の事で、もっと前から「○○しかない」というフレーズは使われていたとは思う。何かきっかけになるコンテンツ(タレントの喋り等も含む)から広まって定着したと推測する。


 勿論、「他のパンは売れてしまって、もうアンパンしか残っていない」みたいな使い方は遥か昔からあった(何百年も前からあったかも知れない)。でも、「主に感情に纏わる名詞+しかない」の組み合わせは、近年になって使われ始めた気がする。「感謝しかない」「後悔しかない」「恐怖しかない」「驚きしかない」「焦りしかない」等々、便利に使える場面が多い。


 毎年末、流行語大賞なるものが発表されるけれど、取り上げられるフレーズは大抵一過性のもので(意図的にそういうものを選んでいる可能性もある)、翌年にはもう巷間で聞かなくなるものが多い。「○○しかない」みたいな或る種の流行語は、大々的に取り上げられない代わりに日常会話の中での定着率が高いと思っている。似たような、いつの間にか皆が使っているフレーズは沢山あるのだろう。「ほぼほぼ」とか「なるほどですね」とかにも同じ匂いを感じている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る