欲望測定器
@MUL630
第1話
手のひらほどの大きさのある機械が、一人の博士によって開発された。
それにはメモリと針、それと持ち手がついており、ある数値を測る測定器のようだ。
「博士、これは何を測る機械だね?」
研究出資者のT氏は博士に聞いた。T氏と博士は長い付き合いで、研究結果をT氏が買い取り、それを世間に販売している。
「Tさん、これを握ってみてくれないかい?」
「いいとも」
T氏が機械を受け取り持ち手を握ると、針が左から右に振れ、中央を超えたあたりで止まった。
「ほぉ、なかなかのものだねぇ」
「博士、これは体の水分や、体脂肪でも測っているのかい?」
「これはだね、人間の欲望を測っているのさ」
「それはなんとも、あいまいなモノだな、今度は君が握ってみたまえよ」
そういって今度は博士が機械の持ち手を握ると、針は半分も触れずに止まる。
「私は研究できていれば、それなりに幸せだからねぇ」
「なるほど、私は商売人だからね、欲があって当然か」
T氏はこれを、どうやって売るか考えた。欲があるかないかを知れて、どうするのか。何に使うのかを考え、博士にいくつかの本数を作ってもらい、ある場所に売り込みをかけた。
何週間か経った後、博士はT氏の自宅に呼ばれ、二人で酒を飲んでいた。
T氏の商売が成功したときは、だいたいこうしているのである。
「Tさん、あれはどこに売ったんだい?」
「ははは、それは……おや、そろそろか」
T氏はグラス片手にリモコンのスイッチを押し、テレビの電源を付けた。
テレビ画面には選挙前の演説だろうか、何人かの政治家が席に座り、意見を交わしている。そして、全員があの測定器を持っていた。
「おや、政治家の先生たちに売ったのかい?」
「いや、テレビ局の方さ、おもしろそうだろう。いくら政治家がきれいごとを言っても、あの測定器があればバケの皮がはがれるのさ」
政治家たちはお互いの測定の結果を見て、誹謗中傷を始めだした。
誰もみな、大きく針が振れている。
そんなテレビスタジオの混乱を肴にし、二人は酒を酌み交わした。
また、何週間か経った後、二人は選挙結果をテレビで見ていた。
「結局、一番欲のない先生が当選したねぇ」
「世間も単純なのさ、欲がなければ不正も起こらないと思っている」
そして1年がたった頃。結局、当選した者も、今までの政治家とあまり変わらなかった。欲のある者が、欲のない者を脅して、裏で操って政治を行っていたのだ。
そして、不正が明るみになることは、以前よりも少なくなってしまった。
「テレビ局にも飽きられてしまってね。世間も欲のある政治家の方が、不正が明るみに出やすいからいいんじゃないかとも言っている。今回の商売は失敗だったかもな」
T氏がそう言うと、博士はまた妙な機械をどこからか取り出した。
それはどことなく、前回の測定器に似ており、T氏が持ち手を握ると針が中央付近まで動いた。
「今度は何を測る機械なんだい?」
「これはだね、人間にどれだけ欲がないかを測る機械さ」
T氏はしばらく考えた後、テレビ局へ持ち込んだ。
次の選挙前番組で、政治家たちは皆、その測定器を手にしていた。
欲望測定器 @MUL630
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます