3人目(2)

「大切なお願い…ですか?」

母親の表情の変化があまりに大きいので、天使は困惑したが、願いを叶えることを使命とする天使にとっては、今は困惑している状況などではなかった。

「はい。私の幼く可愛い、愛しの娘を__返してほしいのです」

「…人を蘇らせることは、天使にはできません。申し訳ありません」

「……、どうして?」

「人は生まれ、そして死ぬ生き物です。それは人だけでなく、ほかの生き物も。だから、天使は人として生きてもらうためにも、蘇生などはできませんよ」

「じゃ、じゃあ__娘を殺した、あのヤブ医者を殺して!」

「…それもできません。少なくとも僕は__」

「うるさい!!なんのためにお前をわざわざ家に上がらせたと思ってるの!?」

「そりゃあ子供を失う悲しさは僕には計り知れないものですし、僕もできることなら生き返らせてあげたいですよ。本当にそうしたいなら、ひとつだけ。方法がありますが、聞きますか?」

「…私の娘が生き返るならなんだってするわ!」

「…大天使様に命を捧げることです」

「わかったわ。その大天使とかいう奴はどこにいるの?」

「10年に1度、こちらにやってきます。人間のふりをして。ちょうど数ヶ月後__人間になりきった大天使様が、この辺りを歩いていると思います。その時に言うのです。__『日用品の天使にして』と」

「…日用品の天使にして…ね。わかったわ。私のお願いを聞いてくれてありがとう。絶対に叶えるわ。もし、また会えたら近況報告でもしましょう。またこのケーキを出すわ」

「…僕はまだ、あなたのお願いを叶えることができていないので…帰ることができないんです」

「あら?願いを叶える方法を教われただけで大満足よ」

「そうですか。…じゃあ僕も、そろそろ行きます。ケーキ…ほんと美味しかったです。それじゃ」

天使はすうっと視界から消えていった。

「__おかあさん」

「ん?なあに?」

「天使さんとバイバイしたの?」

「ええ、したわ」

「!じゃあ、おにーちゃんになれる!?」

「うふふ、きっと__すぐになれるわ」

母親は少年の頭を優しく撫でた。

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