Fiction 4 山梨県北杜市

「ほんと、何にもないなあ」

 ぽつりと感想を漏らした少女は、人も車も店もあまりない駅のロータリーを前にしていた。

「そんなこと言うなよ。地元の人に悪い」

後ろから少女を追ってきた男が少女を咎めた。彼は駅でちょっとした用を済ませてきたところだった。

男も周囲を見渡した。そうすれば確かに駅前の様子は都会基準からすれば「何もない」というよりほかなかった。

通っている路線の名前は一応、JR中央線だ。しかし、その中央線も、東京を出て、山梨に入り、甲府を過ぎれば、完全に田舎のローカル線になる。二人が来ていたのは、そんな中央線の日野春駅だった。

「しかし、『スーパーカブ』ってなかなか渋いチョイスだよな」

男は話題を変えようと話題を持ち出した。

「そう? あれは聖地巡礼してくださいって言わんばかりのアニメだったじゃない」

 男はふとアニメの記憶を探る。「確かにそうっちゃそうだな」

 もうすでにこの日、少女はいつも通りのタメ口に戻っていた。

そしてヘアスタイルは黒髪のボブ。

わざわざ地毛を短くしてきたのだろうかと男は疑問に思っている。

 その短い髪を少し揺らして、少女は両手を広げた。そして、深く息を吸い込み、吐いた。

「空気が美味しいね」

 その一言に男は口を緩めた。「そうだな」と頷く。

「せっかくだしカブを走らせたいところだけど、私免許を持ってないんだ。だから、車、借りましょう」

「ここレンタカー屋とかあるのか」男は辺りを見回しながら言った。

 続けて少女もじっくりと周囲を見渡した。

「ないかもね、この様子だと」

 今回も少女は事前準備を怠ったのだった。


  *


男の運転する車は四方を山に囲まれた田舎の国道を疾走していた。

結局やはりあの駅で車を借りることはできず、彼らは近くの比較的大きな駅へと移動した上でレンタカーを調達した。

 そこに至るまで約二時間かかった。それで男はすでに疲れた様子を見せながら運転席に収まっている。一方の少女は、元気自体はまだ余らせていた。ただその日の始めから何か考え事をしているらしく、助手席に座ってからは押し黙っていた。

 少女が車窓から眺めるのは、背景にいくつも連なる山があり、手前に田畑と無限に続く道路がある景色だった。

 少女は心の中がざわついていくのを感じた。

(私はちょっと小熊に似ている。小熊は何もない、と言っていた。私には何もなくはない。あ少なくともお金はあるみたいだ。だけど、ないものは多い。親も友達もいないし、夢とか目標とかもない。

小熊はこの景色を見て何を思っていたのだろうか。お話の中では、カブを手に入れたことで彼女の見る景色が一変したことになっている。

けど大事なのはお話のお話として切り取られないところじゃない。そこにある日常の中で彼女が何を考えていたんだろうか。それを参考にさせてほしい。

現実にはスーパーカブのような魔法の道具は存在しない。それを持つだけで全てが変わるなんて)と、少女の空想は続く。

(そうやって所詮お話はお話だと切り捨てることは簡単で楽でしょう。でもお話の中のキャラたちだって私たちに訴えかけてくることがあって、そこには何かしらリアリティがあるんだ。それは作った人の意図や意見がどうこうということじゃなくて。多分あるはずの何か、私が見つけ出すとしたら、どうなるんだろう——)

 車は何もない田舎の景色を切り裂かんとするように前へ一心に進む。


「目的地は決めてるのか?」

 男が運転席から問いかける。ハンドルは両手でしっかりと握られていた。

「ううん。決めてない。とりあえず、ここらへんの道を走らせてもらいながら、と思って」

「そっか」

「ただ、いくつか寄っておきたいスポットはある」

「じゃあ、それを巡っていけばいいんだな」

「そうだね」

 少女はスマホを取り出して、聖地となっているいくつかのスポットの住所を調べてみた。手を伸ばしてカーナビを触ったが、走行中画面は反応しない。

「ナビ入れるなら一旦止まろうか」

「いいや、そのまま進んでよ。信号で止まった時とかでいい」

「了解」

 少女はスマホを触ったり、景色を眺めたりしながら、ずっと違うことを考えている。

 だから彼女の返答は少し間が悪い。


(私にあるものってなんだろう。お金?)と、少女の苦悩は続いた。

 といってもその実態は彼女にはわからない。理由も告げず彼女から遠く離れていった父は少女にあの黒光りするカードだけ置いていった。ブラックカードと呼ばれるそのカードで少女は生活に何一つ不自由しない。支払いがどう行われているのかは彼女の感知するところではないのだ。

ただそういう環境を作ってくれていることに感謝はしているものの、少女は自分の父を認められなかった。

その理由の一つが彼女には母親がいないという事実だった。

 少女は自分に母がなぜいないのか知らない。彼女からすればそれはひとえに父のだらしなさのせいだ。

 冷静に考えれば、婚外子かもしくは両親が離婚した可能性が高いのだが、死別してしまった可能性もあるし、そっちの方がまだましだと思って、少女は無為な希望をずっと持っていた。どっちみち答え合わせに意味はないことを理解しながら。

 こうして少女は両親のいない生活を長い間続けている。そんなことを普段意識もしないようになるほどに長く。それで少女は両親がいないことを受け入れたのだ。

だが、そんな心情的な作用の一方で、少なくとも父親は物理的に存在した。そしてそれが、彼女が自分の進路を決める時、問題となって不運な形で表面化した。


「着いたぞ」男は駐車場へと車を滑り込ませながら言った。

「うん」少女は心ここにあらずといった様子で答えた。彼女はまだ考え事の最中にあった。

 到着したのはアニメのオープニングでも使われた山の斜面の展望台だった。

 標高が高いだけあって、眼下には街の景色が広がる。

「おー、いい景色だ」男が先に展望台の柵までたどり着き、左右を見渡した。

 少し遅れて少女もやってくる。

「確かにいい景色だね」

 そこからは、街を遠くまで見晴らすことができた。

特徴的な建物やランドマークがあるわけでもない。ことさら魅力的な景色とは言えないかもしれない。けれど、街を俯瞰することで、そこに住む人々の生々しい営みからは離れられる。それがちょっとした心の栄養になる。田舎の展望台には大体そういう効能がある。

標高の高さが街との間に物理的距離を生み、それは非現実的という安寧を与えてくれる。

「……」少女はそんな景色を見ながらこめかみを押さえて黙っていた。

 その時も少女は、この景色を見ていた小熊の気持ちを理解しようと頑張っていたのだ。

「何か考え事か?」

 思索にふけるいつもとは違う少女の様子に、男はつい声をかけた。

「いや、ちょっとね……」

少女は自分の心に浮かんでいることをそのまま男に共有するか迷う。

 男は純粋な目で少女を見据えていた。その目に悪意は一切ないようだった。かと言って、慈悲深いわけでもない。ただ透明な純粋さを、少女は彼の瞳の中に感じた。

「主人公たちは何を考えていたんだろうな、と思って」

 少女は結局自分の思惟を明かした。しかし、その根底にある心の内はまだ明かさなかった。

 そっちの方が断然大事だ。

「なるほど。この景色を見ていたキャラの気持ち、ね」

男は納得して、再び景色の方へと視線をやった。そして、彼は深呼吸した。

「空気が美味しいな」男はそんな一言を漏らす。

彼はその時感じたことを口にしたまでだ。

山々に囲まれたこの場所の空気は澄んでいて、舌、喉、肺の各細胞に英気を与えるようだ、と彼は感じた。

「それだけ?」せっかく自分の想像を共有した彼女は唇を尖らせた。

 自分の本心は隠していながら、表面的に明かした自分の考えを無視されたことに不満を抱くのが彼女のいじらしいところだ。

「とりあえず、な」

「ふーん」

「ただそれは答えでもある。キャラたちだって、そこまで深いことは考えてないだろう。いい景色を見て、いい空気を吸ったら、『空気が美味しい』と思うもんだ」

「そりゃそうだけどさ」

「でもよく考えてみてよ。あの子たちはこの街に住んでいる。ここが地元なわけだ。そしたら、こういう展望台なんて普通は来ない。自分の街の景色なんて見飽きているだろうし。それでも来るってことは、多分本当に深呼吸をして、『空気が美味しい』と思いたいから来るんだろう」

 やたら長い説明に少女は言い訳臭さを感じた。

「なんか後付けっぽい」と、少女は不満げな表情をつくった。

「本当にそう思ったんだけどな」

「いい空気を吸って、『空気が美味しいな』って思うだけなんて薄っぺらくない? アニメの表現としてはそうかもしんないけど、キャラの心情はもっと深掘りできるかなって」

「そうかな?」

「もっとクリアにできるはずだよ」

「……でも、本当の人間だって、いい空気を吸ったら、大概『空気が美味しいな』で終わりだろう。確かに色々と心の中で思っていることはあるだろうけど、それは言葉にできないぐちゃぐちゃなもので、表現としては出てこない」

 少女は男の言葉に納得せざるを得なかった。「まあ、それはそうだね」

 何よりその日の彼女がそんな感じの気分だったからだ。言葉にはならないけれど、何かもやもやしている。

たとえば、アニメのキャラクターにリアリティを求めるとすれば、それは簡単に表現される感情を持つことなのか、それとも人間らしいもやもやを抱えることなのか。

 男はその点意外と純粋で、アニメのキャラの感情にも複雑なものがあると素直に考えている。

それが案外、彼なりの人間愛の表れなのかもしれない。

「今日はあれやるのか?」

 男はまだ困り顔をしていた少女に改めて尋ねた。

「いや、いいかな。私は先に自分の考えを整理した方が良さそうね。それに、何よりスーパーカブにはあなたの能力が活かせそうな絶対的な聖地はないし」

「了解」

 少女は柵に肘をついて、目の前に広がる景色をぼうっと眺めた。そして、深呼吸する。

「どう?」そんな様子を見て、男が聞く。

「美味しいね」

 その間抜けな回答に、深く考えるのを馬鹿馬鹿しく感じた少女は少しだけ吹き出してしまった。それをごまかし気味に、少女は振り返って車へと向かった。


男もまた車を走らせながら、考え事をし始めていた。

男と少女が出会ってもうそれなりの月日が経っていた。相変わらず彼らは互いの名前も知らないままに、こうやって旅を共にしている。まあそれでも、行き帰りも宿泊も別々なのだからそれで特に問題は生じない。

とはいえ、そろそろ少女の本音を引き出したい、と男は感じ出していた。そして、彼女の個人情報も少しは。

つまるところ、男としては少女のことをもう少し理解したかったのだ。それはそれなりの時間を共有することで湧く自然な愛着から来るものだった。

彼女が名前を教えてくれない理由が彼にはわからない。

だが、相手のパーソナリティーに踏み込まない関係には限界が来ることを彼は知っていた。そして、その時がだんだん近づいているように男には感じられていた。

男は今のちょうど心地好い関係性を抜け出して、自分が一歩踏み出すか、迷っていたのだった。


「次はどこにしよっか」少女が助手席から問いかけた。

「どこか候補はあるのか?」男はとりあえず山を下る道を走らせていた。

「うーん、なくはない、くらい」

「まあせっかくなんだし、スポットは全部巡ればいいよ。車も借りたし」

「そうね」

 そうして二人は市内に散らばる巡礼スポットを押さえていった。どの場所もアニメのシーンそのままで良い旅になった。けれど、スーパーカブという作品を端的に表しているスポットにはまだ巡り逢えていなかった。少女はそれに少し物足りなさを感じていた。

「これで大体回れただろう」

 男は運転席に腰を下ろし、少女の指示にあった数カ所を回り切ったことを確認して言った。

「もうそろそろ日も暮れる」

「……」少女は助手席で反応せずにまた困り顔を作っていた。

「どうかしたか?」

「うーん、なんかね、いつもほどの充実感がないというか……」

「え、そうなのか」男は意外そうに言った。彼にとっては今日の行程もこれまでと同じように感じられた。

「何が問題なんだ? やっぱ、あれ使った方がよかったか?」

「いや、そういうことではないと思うんだよね」

「それはそれでショックだけど」男はおどけて言ってみせた。

少女のまとう暗い雰囲気を少しでも明るくしようという彼なりの気遣いだ。だが、それも今回は空振りに終わった。

「あなたの能力はすごいよ。それは認めてる。けど、今日はそれが問題じゃないんだよね」

 ただ少女の返答は至極真剣なもので、彼の冗談は冗談として捉えてもらえなかった。

 そんな真剣さを男は感じ、真面目に向き合う方に舵を切った。

「でも、じゃあ何が問題なんだ?」

「もうちょっとこのアニメから勉強できることがある気がするんだよね」

「勉強?」

「そうそう、勉強。まあ勉強というか、研究かもしれない」

「研究?」

「ええ、そうよ。でもな……」

「うーんと……。結局、君は——」男はまたもや純粋に光る瞳で少女を見た。「君は、一体何をしているんだ?」

「……」少女は黙っている。ただ不機嫌になったわけではない。素直に男の言っている意味がわからないという顔をしていた。「それはどういうこと?」

「つまり、——」男はここで一歩踏み込んでみようと思ったのだ。

「——君はこの旅の中で何を目的としているんだ? 宿題と言ったり、勉強と言ったり……。それを教えてもらえれば、俺も力になれるかもしれない」

「……そうね」

そのつぶやきが彼女の口をついて出た。それはちょっとした時間稼ぎだ。

 少女はすでにこの男に十分恩義を感じているし、それなりに信頼もしていた。その上で、彼に自分の本心を見せるかどうか、迷っていたのだ。

「——じゃあ、逆に聞かせて。あなたは何者なの?」


「それを言えば、君のことも教えてくれるのか?」

「……」少女はじっと固まって黙っていた。

 そんな姿を見て、男はあの教習所の女とのことを思い出した。

「まあそうだよな。じゃあ、ここは俺が自分の話をするとしようか」

 男はそう言って自分の話を始めた。同じ失敗を繰り返さないために。

「俺の名前は——」

「あ!」少女は勢いの良い発声で男の言葉を遮った。

「ん?」

「名前かあ……」少女は渋い顔をした。

少女は他人の名前を知ることに妙な抵抗感を持っている。

「まあいいじゃないか。俺が勝手に言いたがってるだけなんだ」

「そ、そう」

「俺の名前は川端という。名字だけだからそこまで問題ないだろ?」

「うん」彼女は頷きながらも気の引けた反応をした。

「で、今はフリーター。定職にもつかずにぷらぷら自由にしているダメ人間だな。歳は25。そんなもんか」

「……」

「他にも知りたいことがあったら聞いてくれ。だからと言って、君が何かを俺に教えなきゃいけないというわけじゃない」

「そっか」

「ただ、さっきの話だけど、もし君が多少自分のことを話してくれれば俺でも力になれることはあるかもしれない。まあ気が向いたらでいいんだけどな」

「……」やはり少女は黙って真剣な顔をしていた。

 だが少しして、ぷふっと吹き出した。「まあいっか」と自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「川端さん?」少女は初めて男の名前を呼んだ。「あなた、ダメ人間とか言っときながら、全然そうは思ってないでしょ」

男は少女が笑みを見せてくれたことに少し安心した。「そうか?」

「うん、なんか自分の意志でそういう生き方を選んでいるような気がするよ」

 実際、少女の洞察は的を射ていた。彼は自分の自由な生き方を卑下してはいない。あまり良いものとも思ってはいないが。

「まあそんなこともなくはないかもな」

 ふふ、と少女は目を細めた。

「でもさすがにそこまで教えてもらったらこっちも何か返さないといけないってなるよね」

「いや、それは——」

「まあいいんだ。別にそんな嫌じゃないし」

「そうか。それならよかった」

「でも名前は勘弁してね」少女は温和な笑みを浮かべた。その笑みは高貴で上品だ。

 彼女が他人の名前を知りたくないのは、礼儀の上ではその返答に自分の名を名乗らなければいけなくなるからだ。彼女は自分の名が好きではないし、知られたくない。

「それであれだよね、私の旅の目的——そうね、なんて説明したらいいかな。とりあえずは、父親を説得するため、かな」

男は表には出さなかったが、内心驚いた。「へえ」

半分くらい少女の旅は金持ちの道楽だと思っていた。だが存外、彼女は真面目な課題に向き合っている、そのことを彼はここでしっかりと認識した。

「でもまあ当然、旅をすることだけで父親を説得はできないよな。可愛い子には旅をさせよって話でもなさそうだし」

「そうなんだよね」

「今さっき君は『もう少しスーパーカブから勉強できることがある』と言ったよね。それなら何を勉強しようとしてるんだ?」

「うーん、それもなんとも説明しがたいんだけど……。強いて言うなら、人の生き方、ってことなのかな」

「ほーん。でもそれならなんでアニメの聖地巡礼を?」

「鋭い質問だね。けど、それはただ好きだからだよ」

「アニメが?」

「そう」

「ふーん、そうか」

「まあ確かに、お話を語る形式には映画もあるし小説もあるけど、私としてはやっぱり好きなんだよね、アニメ。だからそこをもうちょっと深掘ってみようかなって」

「それでもまだちょっと曖昧だな。なんとか上手く言葉にできないかな? 君がやりたいこと」

「うーん」少女は頭を悩ませる。

「結局、お父さんには具体的に何を求められているんだ?」

「『俺が勧めた道を進まないのなら、俺を説得してみろ』って言ってた」

「なるほどね」

 進路の問題か、と男は頭の中で理解を進めた。

「じゃあ、それだと明確にこれをしなきゃいけないってことがあるわけではないんだな」

「そうなのよね。だから難しい」

「それじゃ君はどういう道に進みたいと思ってるんだ?」

「……」ここまで饒舌に自己開示をしてみせた少女はここで口をすぼめた。

 そんな様子を見て、男はフォローを入れた。「恥ずかしいならいいよ」

「いや、そうじゃないんだよ。私はね、とにかく父親が言うとおりにはしたくないだけなんだ」

「ああ、なるほど。だけど、明確にこれをやりたいってことがあるわけではないんだな?」

「そう」少女は素直にうなずいた。

 素朴な表情を整った容姿に浮かべた少女を前にして、男は彼女と共にしたこれまでの記憶や感情がすべてつながっていくのを感じた。

 “ああ、この子も俺と同じなんだな “

 男は急激にその可憐な少女に対する親愛の情が溢れてくるのを感じた。

ただその情動は自分の内に留めおいた。代わりに一言、

「俺が出来ることは惜しまずやるよ」と、彼女の目を真摯に見つめて言った。

「……ありがと」少女は少し考え事をする素振りを見せたのち、はにかんだ。


  *


 中央線をひた走る新宿行きの特急に、二人は並んで座っていた。

 窓際の方に座る少女は満足げな顔を湛えて、寝息を立てていた。

 隣の男は前に手を伸ばし、小テーブルを引き出す。手持ちのリュックからメモ帳を取り出し、びっしりと文字が並んだページを繰って、空白の紙を見つけ出した。そのメモ帳を小テーブルに乗せ、ポケットからペンを持ち出す。

 少しの間、頭を捻らせてペンを走らせた。

《3/4 探していたものに今やっと一歩近づけたような感覚に遭遇。名もなき少女は何かへ導いてくれるのだろうか。この旅の終着地は見えないけれど、ようやくちゃんと始まったみたいだ》


【en hommage à『スーパーカブ』par トネ・コーケン】

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メタ*ユニバース ユージ カジ @yujikaji

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