第一章『??の鍵』⑪
数多の映像が視界に流し込まれては消え去っていく。
それは古いアニメ映画で見たような宮殿の中であったり、ほとんど布切れみたいな服をまとう人々が身を寄せ合う暗い路地裏だったりした。
光が、音が、洪水となってナルを飲み込み、ナルの心を食いつぶしていく。
激しい痛み。死の一文字が霞み、同時に生の一文字がありありと浮かぶ。
何……っ何!?
ナルが辛うじて思考できるのはそれだけであった。
異常な何かが起きている。それはわかるが、今のナルは、自分が立つ場所すらわからなくなっている。
助けて、誰か!
ナルは手を伸ばした。『手』と思しき身体の一部を、救いを求めて伸ばした。
その先に現れたのは、人の形をした何かだ。
それは、青年と呼んでいい年の頃の男のように見えた。
青年はナルの手を取りはしない。青年の手は、すでに塞がっていた。
右手に3本の“鍵”、左手に1本の“鍵”がある。
太陽のようなまばゆい黄金の髪を持つ青年は、しかしひどく悲し気な面持ちであった。
どうやらナルに気づいたらしい。ナルの目を見る。
ナルと、青年の目は、かちりと合った。
その瞬間、ナルと青年の間に光の粒が集まる。
それは新たな1本の“鍵”の形となって現れた。
青年の顔はおぼろげにしか感じられないが、明らかに驚いていることがナルにはわかった。
次の瞬間には破顔し、ナルにあふれんばかりの好意ととれる感情を向けていることも。
5本目の鍵は、ナルの中に沈んでいく。
それは青年が願ったことのようだった。
そして、青年は、慈しむような声で言った。
「……君だ」
どういう意味だ、と尋ねようとしたナルだったが、青年の姿は次第におぼろげになり、ナルは手足の感覚をしっかりと取り戻した。
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