第一章『??の鍵』⑧
窓の外にはぽつりぽつりと電灯の明かりが見える。黒々とした森を頼りなさげに照らすその光に、ナルは少しぞわりとした。
編入初日で教員相手に暴力行為。その反省として、授業初日まで自室で謹慎。ルームメイトも連帯責任として同様の処分。
ナルの起こした騒ぎはただちに義父と母親に報告され、その返事を持ってきた灯理は腕を組んで一言、こういった。
『お前の親御さんは大変悲しんでいた』と。
ナルは、道端の虫が死んでも悲しむような繊細な母親のことを思い、胸がズキズキと痛んだ。
いい子、いい子、かわいいナル。
さぁもう泣かないで。その涙をママが食べてしまいましょうね。
そうしたらニッコリ笑顔で、かわいいナルに戻りましょうね。
「……こんなはずじゃなかったのに……」
ナルは窓にうっすらと映る自分の顔を指でなぞる。今にも泣きだしそうな顔だった。
不幸の始まりはどこだろうか。素子にファンクラブの勧誘を受けたところから?
『鬼の風紀委員長』にも目をつけられてしまって、二人とも今後は、ナルを徹底的にマークしてくるに違いない。
何もかもがうまく行かない。
「ごめんねじゅりあ、アタシのせいで……」
ナルはしょぼくれた自分の顔を見るのをやめて、じゅりあを振り返った。
じゅりあはナルと共に処分を受けたことを、ちっとも咎めなかった。笑ってナルを許し、日が沈むまで落ち込むナルを励ましすらした。
天使のように暖かい子だと感動すると同時に、ナルは罪悪感で胸が張り裂けそうであった。
「……じゅりあ?」
ナル自身は朝に車の中で眠りすぎたのでギンギンに目が冴えたいたのだが、 てっきりじゅりあはもう眠ってしまったのかと思っていた。
しかし、部屋の壁に沿って置かれているふたつのベッドは、どちらも毛布がペタンとしていた。
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