第一章『??の鍵』②

「桃鎮似学園へようこそぉ、篠宮しのみやナルさん」

 さっそくお嬢様が出てきやがった、とナルは内心げんなりした。

「ナルさんのお父様ですね。私は桜木じゅりあ。ナルさんのルームメイトですぅ。どうぞよろしく~」

 これまた城門かとみまがうほどご立派な校門を抜けると、迎えの生徒である桜木じゅりあがお行儀よく会釈した。

 桃鎮似学園は、いまだに九九が怪しいナルですら聞いたことくらいはある超名門の全寮制お嬢様学校である。

 そして今、ナルと同じ制服を着て、ナルに向かってひとかけらの敵意もなく微笑みかけるこの少女は、まさしく『お嬢様』を体現したような見た目をしていた。

「伺っております。桜木家のご令嬢ですね。……いや安心しました。娘を託すのにこれ以上信頼できる方はいません」

「まぁ~素敵なお父様ですこと。期待に応えられるよう精いっぱいつとめますわぁ」

 ナルの仇敵とナルのルームメイトは、ナルを間に挟んでなごやかに笑っていた。

 ぶすーっとむくれたナルの顔を横目で察したのか、仇敵は慌ててごほんと咳払いをした。

「それじゃあナルちゃん、私は仕事が押しているからもう行くけども」

 ナルはその男と目を合わせなかった。

 それが、ナルがこの男にできるせめてもの抵抗だった。

「手紙を書くからね。しばらくは慣れずに辛いだろうけど、健康にだけは気をつけるのだよ。お母さんのことは僕に任せて。それから……」

 男はナルの頭に手をのせた。

「……君が私のことを『パパ』って呼んでくれる日を、ずっと待っているからね……」

 ナルは怒りのあまり手を振り上げそうになり、母親の顔を思い出してその手を下げた。

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