7話 大谷家の秘密

 一平の部屋に戻ると、一平は綺麗な小箱を取り出して来た。


「ナオさん、和菓子好き?」

「大好き」

「ナオさんのお母さんにリサーチしておいて良かった。ヤマさんに買って来てもらったんだ」

「わあ、練り切りや。嬉しい。うち、お茶を煎れてくる」

「ヤマさんに頼むといいよ」


 ナオは胸の前で手を叩きながら弾むような足取りで、先ほどの一平の両親の部屋に行き、キッチンを覗いたがヤマさんはいなかった。

 レイは母親とドッグサロンへ行っている。


「カチャーン」


 陶器を引っ繰り返す音がした。

 ガラス戸の向こうのベランダに人の気配がした。

 ナオが覗いてみると一平の父親がいた。


「ああ、わかってしまったね。騙すつもりじゃなかったんだが、ナオさんがこれを見て、一平との結婚に腰が引けたらいけないと思って」

 

 車椅子に座った一平の父哲之介は笑った。


「腰が引けるも何も、まだお付き合いもしてへんのに、考え過ぎやわ」

「親心だと思ってください。警察関係の人間は、こういうこともあるということです」

「そりゃあ、一平君に何もないのにこしたことはあらへんけど、仕事柄そういう局面に絶えず接しているのはわかってます。あっ、それより何か拭くもの取って来ます」


 キッチンに向かうと、ヤマさんとスーツ姿の一平が同時に入って来た。

 ベランダの哲之介の姿を認めると、哲之介は首を竦めた。


「ばれてしまった。呼び出しか? 昨夜も遅かっただろ」

「だから隠すことないって言っただろ。ナオさん、仕事が入ってしまって、ちょっと行って来ます。すぐ帰って来るから、ほんとごめん」


 一平は拝むように手を合わせた。

 そう言えば数年前、警察庁か警視庁かは忘れたが、長官襲撃事件というニュースをテレビで見たのを思い出した。

 週刊誌の見出しに「オニテツ、銃弾に倒れる」なんて、おもしろ可笑しく書いてあった。

 あの被害者なんやろか?

 表の柵扉に貼り付いている、ものものしいSPのことも頷ける。

 この建物の階上に住むSPが交代で24時間警備にあたっているという。






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