第6話 ナオのお土産

 同じフロアに一平の両親は住んでいて、一平の部屋の2つ分ほど間取りを広く取ってあった。

 

「これ飛行機で持って来てくれたの。ナオさんてワイルド」

「まだ仄かに温かいから今食べたい」


 箱から1つ掴むとレイは食べ始めた。


「まあ、お行儀の悪い」


 ヤマさんが慌ててレイの前に小皿を置いた。


「この豚まんって工場から車で30分以内で運べる、鮮度の保てる所にしか店舗を作らないんだって。この間、テレビで見て一度食べてみたかったんだあ。ナオさん、ありがとう、美味しい」

「「じゃあ、私たちもお昼にいただきましょう」


 絶えず口角を上げ微笑みを忘れずにいる母親が言った。ロングスカートが上流階級の奥様風情を醸し出している。

 ダイニングテーブルはどっしりとした10人は座れそうな食卓だった。

 一平の父親も警察関係だと聞いていたが、如何にも温厚そうで穏やかな表情をしていて、


「レイはどうしてナオさんの腕に腕を絡めてるんだ」


 ダイニングテーブルの向かいの席から訊いた。

 ナオもなぜなんやろと思いながら、訊き出せずにいた。


「だってお兄ちゃんの彼女になる人が逃げたら困るでしょ」

「ああ、それはいい。レイしっかりと離すんじゃないぞ」

「うん」


 みんなの笑いを誘った。

 お茶は片手で飲めるけど、ひょっとして、これが一平の言っていたウェッジウッド?

 ナオの指先に急に緊張が走る。

 アールグレイのお茶がいっそう格調高く芳しく感じられた。

 ナオの左腕からレイの温もりが消えた。


「ワン、ワン」

「あら、可愛いやん」

「ナオさん、その子がララ」

「ララちゃん、初めまして」


 シーズー犬の子犬が尻尾を千切れんばかりに振りながら、横の部屋から飛び出して来た。

 ナオが抱き上げるとララは顔をペロペロと舐めた。


「ウヒョー、すごい歓迎ぶり」

「次はリリ」


 また、横の部屋から一匹飛び出して来た。

 

「キュィーン」

「あら、この子も可愛らしいやん」

「お次は」

「わかった、ルルやろ」

「あったりぃ」


 キッチンのヤマさんから悲鳴があがった。

 一平は両手に子犬を抱えキッチンから戻って来た。


「どうしてリードをつけとかない」

「だって、1人ずつの可愛さを披露したかったんだもの」


 あとの2匹、レレとロロははリードに繋がれてのご対面となった。

 今日はサロンでシャンプーしてもらう日で、パパとママ、合わせて7匹の大所帯は出かけて行き、急に静かになった。

 











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