第4話 帰らないで

 非難を浴びた丸福不動産の社長は、不動産詐欺の被害者である日暮香奈に格安物件を紹介すると申し出たのだが、すでによその不動産会社から救済の手が差し伸べられていた。

 丸福不動産はエレベータ付きのバリアフリーのビルに建て替えることになり、1階に駐車スペースを設けるので、当然のことながら薬局の休憩スペースがなくなることになった。

 ほかの店を探す案もあったが、薬局は閉店することになり、店員は近くの同グループの店舗へと移動になる。 



 

「早く起きないとナオさん、帰っちゃうよ」

「えっ、今何時だ?」

 

 スマホを見ると数回ナオからの着信履歴あった。

 一平はベッドの脇に脱ぎ捨てていたズボンに足を突っ込むと、これも脱ぎ捨ててあったYシャツを引っかけると、飛び出して行った。


「ナオさーん、待ってー」

 

 ナオは家の前のなだらかな坂道を下りて行くところだった。


「ナオさん、待って。帰らないで!」


 転びそうになりながらナオに追い着いた一平は、離すまいとナオを抱きしめた。

 一平の程よく筋肉のついた胸が、頬に心地よい。男の人の胸に顔を埋めるのも案外ええもんや。

 慌てて纏ったのだろう、素肌が剥き出しだった。


「ナオさん、ほんとごめん。空港に迎えに行くって言っておきながら、ごめん」


 一平の家の前には物々しいSPさんがいて驚いたけど、名乗ったらすぐに通してくれた。

 でも、通されたマンションの部屋からキャミソールにショートパンツの可愛らしい女の子が顔を覗かせた。

 ほら、やっぱりやんか。彼女はおらへんて言うてたけど、そんなわけあらへん。

 先輩いわくイケメンやし、高学歴に、高身長。おらんわけがない。

 うちがアホやった。ノコノコと東京まで出て来て。


「ちょっと離して」


 少し名残惜しいけどナオは両手で一平の胸を押しのけた。


「ナオさんが帰らないと約束してくれたら放します」

「うん、まあせっかく来たんやから、でも、彼女さんはええの?」

「彼女さんて? あっ、ひょっとして妹のレイのこと」






 


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