第3話 一平の癒やし
もとから小さな顔の一平は、げっそりと頬がこけて疲れ切っていた。
アメリカ出張の帰り、不動産詐欺事件に進展があったと知り、そのまま美弥子の居住地である南の島に向かったのだ。
だが、真実が浮き彫りになるほど、どうにも気持ちが落ち込んでしまい、ナオの顔が見たくて、その足で今度は大阪まで飛んで来た。
「美弥子が店を手放したがらなかったのは、いつかは母親が帰って来るのでは、妹弟が戻って来るのではないかと待っていたんだと思う。でも、母親は本島で新しい生活を初めていて、子どもが2人いるんだ。やるせないよ」
呟くように一平は言った。
「もとから悪人なんていないんだね。この詐欺事件、調べれば調べるほど暗い闇にはまっていくようで、僕は刑事には向いてないんじゃないかと思うんだ」
一平は鼻を啜った。
相当疲れが溜まっていてナーバスになっているようだ。
早くお家にお帰りよ。ナオは思った。
一平は助手席で眠っててしまっていた。
関空まで30分ほどの距離だったが、これで少しは疲れがとれればいい。
ナオはハンドルを握った。
「コナン君から、連絡はけえへんの?」
薬局の先輩が訊く。
「大きな案件を抱えていて、東京から離れられへんて航空券送ってきよった」
「それで、あんたどないするん?」
「その気もないのに行くのもどないかと思うて」
「えっ、チケットほかすん、もったいない。お盆休みどこも行かへんのやろ。東京見物して来たらええやん。土産は、あっ、いらっしゃいませ、処方箋お預かりします」
薬を取りに来た患者に向かい、先輩はにこやかに応対した。
「ちょっと、ここの店なくなるてほんま?」
「ええ、まだ先のことなんですけど」
「家から近くて良かったのになあ」
「ありがとうございます。まだしばらくはおりますのでよろしくお願いします」
小さな町の情報伝達は早い。
ナオが警察に表彰されたときも瞬く間に知れ渡り、来る患者、来る患者に同じことを訊かれた。
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