第2話 詐欺師の生い立ち

 美弥子の家は船長をする父親が生きていた頃は、そこそこ裕福に暮らしていた。

 美弥子が中学生のときに父親が海難事故にあい生活が一変した。

 スナック「みね」は父親の生命保険金で手に入れた店だった。「みね」は母親の名前。さほど儲かっている様子もなく母子4人が糊口を凌げるていどだった。


 店を始めて1年ほどたったある日、母親は子どもたちを置いて、客の一人と姿を消した。それまでも家の事をやっていた美弥子は、妹弟の面倒をみていたが、本島からやって来た役人に妹弟は連れて行かれ、学校で居残りのあった美弥子は一人取り残された。

 しばらくすると美弥子は妹弟を探しに行くと出て行ったまま帰ってこなかった。美弥子が中学2年の夏のことだった。


 10年後、島に戻り再開した美弥子のスナックでの稼ぎは知れていて、2階の部屋でスナックの客相手に夜とぎをしていたというのが、島民たちのもっぱらの噂だった。

 


 

 その日、ナオは仕事が早く終わり、マンションの玄関扉を開けるといかにも高級そうな黒い革靴が揃えてあった。

 んっ、珍しい、お客さんかな?


「ただいま~」

「おかえり~、ナオさん」

 

 リビングのソファーに大谷一平が座っていた。


「えっ、どうして?」

「だってナオさん電話にも出てくれないから来ちゃいました」

「来ちゃいましたって、そやかて、アメリカからの電話なんて着信料かかったらたまったもんやないもん」

「かかりませんよ~。それより僕感激だな。ナオさんお嫁さんに行かないで、僕のこと待っていてくれて」


「お母さん!」


 母は首を竦め笑いを噛み殺しながら自室に逃げ込んだ。


「母から何を聞いたか知らんけど、作家もどきの空想癖に騙されたらアカン。人生棒に振るで」

「僕は嘘でもいいからナオさんと」

「おっと、それはナイ」



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