第29話 フリコの滅亡史
「・・・と、いう訳なの。彼女は、別に私たちを脅かしたくなかったのよ。そうよね?」
「そうじゃ。此度はわらわが皆に迷惑をかけて、誠にすまなかった。この通り陳謝いたす。」
二人に連れられてフリコ市に戻って早々、ローチェは皆の前で敬意を説明し、謝罪た。今彼女は頭しか動かないが、本当なら地に頭をつけて謝りたかったようだ。
「見下すようですまない、本当は土下座して謝りたいのじゃが、まだ関節が修理されておらぬゆえ・・・」
「い、いや、そんな、土下座までしなくても・・・こちらこそ、貴方の住処へ許可もなく勝手にどやどや押しかけて来て、とても申し訳ありませんでした。まさか生き残りが・・・それもロボットがいるなんて、知らなかったんです。」
クインヴィや発掘隊、キクマルとマサルには、先ほどのGがまさかロボットの頭部に変形し、しかも人間並みの知能を持って言葉を話すこの状況を理解するのには少々時間がかかったが、トルヴィア主導で彼女を総員でオーバーホールしていくうちにだんだんと打ち解けていった。
やがて陽が落ち、破壊されたすべての関節が修理されてローチェは再び五体満足な状態に戻ると、改めて変形し直し、トレーラートラックとGの状態に分離した。
「ひっ!」
クインヴィはさっとトルヴィアの後ろに隠れた。敵意がないとはいえ、やはりこの姿では嫌悪感が上回るらしい。
「クインヴィ、失礼よ。」
「よいのじゃ。トルヴィア殿。わらわたちはもとより慣れておる。・・・さて、すっかり体も治った。久々の重油風呂で何百年ぶりに体が艶めきを取り戻して調子が良い。おお、そうじゃ、フリコについて話してほしいんじゃったな。だいぶ長くなるが、それでも良いのか?」
「ええ、勿論。マサル、キクマル!」
「「ここに!!」」
「ペンと紙を。貴方たちは記述係として彼女のいう事を一言一句書き記すのよ。後で国王陛下にも献上するのだから、決して漏れのないように。」
「「御意!!」」
キクマルとマサルは、記録紙を広げて、インクつぼとつけペンを用意し、口述筆記の準備を整えた。
「さ、準備ができたわ。でも、分からないことは分からないと言っていいからね。」
「そうか、分かった。・・・まず、わらわが生まれた、400年前から話そうか・・・」
ローチェは細長い触覚をゆらゆらと動かして光線を発射し、コンテナトレーラーをスクリーン代わりに己の記憶映像を映し出してかつての記憶について話し始めたのだった。
・・・
虫人の技術がフリコで生まれたことは、そなたたちも知ってるであろう。わらわたちゴッド・キラー・アッセンブリはその技術を応用して、人間に変異中の遺伝子を埋め込んだ虫人とは逆に、変異虫に人間の遺伝子を埋め込んでサイボーグ化し、より高度な作戦遂行能力を持たせた生物兵器として生まれたのじゃ。普通ワム粒子を過剰に与えれば虫は変異虫となるが、ゴキブリはワム粒子をただ与えるだけではなりにくい種類でな。そのためわらわたちは、生まれる前の卵の状態よりもさらに前の、胚の状態から変異虫になるように設計されたのじゃ。
本当ならオスのゴキブリを35匹改造する予定だったそうなのじゃが、一匹だけ手違いで雌の変異ゴキブリが誕生してしもうてな。それが、わらわなのじゃ。わらわは一番最後に生まれた。開発者たちは改めて36匹目を作り直そうとしたのじゃが、どうやらわらわの発するフェロモンがオスの変異ゴキブリたちを統率するのに有用だという事が分かってな、わらわは彼らのまとめ役を務めることになったのじゃ。
最初のころはわらわたちをそのままの姿で使っていたのだが、開発者のキンジョウと言う者の提案で、わらわたちを輸送する武装トラックと合体し、巨大な人型の機械としても運用されることとなった。トラックの武装、機動力をそのまま使える上に、一つの作戦に割ける人数を大幅に削減できるし、何より、巨人の姿は見るものに大いなる恐怖を与える。それこそが、ゴッド・キラー・アッセンブリの最大の利点だったのじゃ。それこそ神をも殺せる勢いで大東亜連邦の各都市を滅ぼしていき、向かうところ敵なしのわらわたちが、この星を征服するのも時間の問題と思って居った。・・・あの日までは。
ある日突然、銀河皇帝クモ・ルクルが、のちに恐怖大帝アフレイダスと呼ばれるあの男が、側近を一人連れてでふらりとやってきてフリコ市国を襲撃したのじゃ。この星に存在する国家は皆銀河帝国とは国交を結んでおらず、また交流もなかったのでフリコはその動きを全く察知できなかった。じゃが、それは大した問題ではなかった。あいつは、見た目こそ少年の出で立ちなのに、その強大な力にわらわたちが束になっても全く歯が立たなかった・・・わらわはそのとき、偶然あの培養槽の中にいた。襲撃を聞いて、わらわも迎撃しようとしたのじゃが、次々に死んでいく仲間たちをみて、恐怖で足がすくんで、全く動かなかった・・・わらわはその光景を、黙ってみているしかなかったのじゃ・・・フリコの民を、そして34機の仲間たちを破壊しつくした後、皇帝は満足そうに帰っていった。その時の言葉は、今でも鮮明に覚えておる・・・。
「神をも殺せる機械だと・・・?笑わせないでおくれよ。皇帝は天子。天子は天の子、すなわち神の子。そんな僕一人殺せないで何がゴッド・キラーなんだ・・・?愚かなフリコ市国、僕より強いもの、強くなりそうなものは、この宇宙に存在してはいけないんだよ・・・ふふふ、ははは、ははは!!」
その日、フリコは滅びた。それ以来、わらわは400年余りずっとここで一人で暮らしていたのじゃ。仲間たちの残骸から使える部品を抜いて、己の体の補修用に使ってきたが、それらのストックが底をつきかけて、どうしようかと悩んでいる所にそなたたちがやってきたのじゃ。ものすごく久しぶりに見る人間じゃったからの、あいさつをしようと声をかけようとしたら、なんとわらわの音声回路が故障していたとは・・・長くしゃべらなかった故、気づかなかったんじゃろうな。
これが、わらわが知っていることの全てじゃ。
・・・
ローチェから聞かされたフリコ市国に起った出来事は、トルヴィアたちにとっても初耳の事だった。彼女たちが知っている歴史は、いずれもカヴト王国視点で書かれた歴史だったからだ。
「有難う、ローチェ。400年もずっと独りぼっちだったのは、さぞつらかったでしょうね・・・」
「まあ、エネルギー節約の為ほとんど寝ていたんじゃがな。・・・ところで、そなたたちはこの都市の発掘調査をもう終えたのか?」
「ええ。大方ね。後は資料をまとめて持ち帰って詳細な調査をするだけだけど・・・」
「もしよければ、わらわも王国へ連れて行ってくれぬか。もう孤独には飽きた。やはり語り合える人がいたほうが楽しい。よいかの?」
「もちろん、いいわよ。みんなも賛成よね?」
「もちろん!」「いいですとも!」「大歓迎ですよ!」
みな、トルヴィアに賛成だった。クインヴィも賛成している。ただ、クガだけが神妙な面持ちだった。
「どうしたの、ミツル。あなたは反対なの?」
「いや、俺もローチェを王国に迎え入れるのは賛成だが・・・フリコは我等カヴト王国にとって、高祖の代から敵国とされている。国王陛下は、そのフリコの生き残りを快く受け入れてくれるだろうか・・・」
「何を言うの、もう400年もずっと敵対どころか音信もなかったのよ、そんな大昔の事を掘り返すほど度量は小さくないわ。」
「・・・そうか。まあ、そうだよな。」
ローチェも王国へ連れて帰ると皆の意見が一致した所で、すっかり夜も更けてきたのでみな、ひとまず眠ることにした。そして、翌朝。発掘隊は各々の荷物をダンゴムシに積み込み、ローチェは自分のトレーラーに体の設計図、そしてスペア部品などの自分の整備に必要なものを積み込んで、フリコを発った。キャブの運転席と助手席には、トルヴィアとクガ、そしてローチェが乗りこんでハンドルを握っている。
フリコから数キロ離れた所で、ローチェはトレーラーを止めた。
「どうしたの?ローチェ。」
「・・・すまぬ。最後に一目、わらわの故郷を見ておきたくな。」
ローチェはカサカサと移動して、キャブの上に登ると、頭部に変形してその目にフリコの都市を焼き付けた。
「・・・さらば、わがふるさとフリコ。さらば、わが兄弟たち。そして・・・さらば、キンジョウ主任・・・」
別れの言葉をつぶやくと、ローチェは再びGの姿に戻って中へと戻った。そして再び、トレーラーは昇る朝日を背に受けて王国へと向かって走り始めたのだった。
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