第28話 ゴッド・キラー・アッセンブリ
二人を見下ろすようにそびえたつ黒い巨体のロボットは、狙いを定めると己の両腕を二人めがけて振り下ろした。二人は即座に避けた。しかし、避けた先でもロボットは狙いすましたかのように巨大な掌を道路にたたきつけてくる。体が大きい割に動きはとても素早い。二人は避けるのに必死だった。
「何て素早いの、まるで私たちの動きが読まれてるみたいに・・・!」
「”大男、総身に知恵がまわりかね”じゃないのか普通は!!」
「えっ、あの怪物の性別って、男なの?」
「そんなこと、俺が知るか!!」
二人が無駄口をたたいている間にもロボットの攻撃は止まない。二人が逃げ回っている道路がロボットに何度もたたきつけられるうちにボロボロと崩れていく。このままでは自分たちも危ない。一転攻勢をかけて、トルヴィアは道路に面した崖をロボットの頭の高さくらいまで駆け上がり、思い切り飛び上がってロボットの顔面へ飛び蹴りを食らわせた。
「これ以上は、好きにさせない!!はぁーっ!!」
だがなんと、ロボットは彼女のつま先が当たる瞬間に頭部を分離したうえ、なんと先ほどの巨大Gに変形してトルヴィアを難なくかわしてしまったのだ。
「な、何よそれ!ずるいわよ!!」
羽根を広げて急停止したトルヴィアは体勢を立て直そうと振り向いた。既に巨大Gは再びロボットの頭部に変形し、キーンキーンと何やら甲高い音を発して彼女をにらみつけている。
「今のを見た!?やはりこいつはあのゴキブリだったのよ!あのゴキブリがトレーラーと合体してロボットになってるのよ!!」
「なんだって!?ゴキブリのロボット!?」
「私の目に間違いがなければそうよ!うあっ!!」
逃げ回るトルヴィアに向かってロボットの魔の手が彼女を捕らえんと追ってくる。そしてもう片方の手は、クガを潰そうとしている。本来Gは、見つかり次第人間に潰される存在ではなかったか。それが今では逆に人間をGが潰そうと躍起になっている。これではあべこべだ。
「今ならゴキブリの気持ちがちょっとだけわかるわ・・・」
「何ゴキブリなんかに共感してるんだ!!ええい、こうなったら人間とゴキブリは永遠に不倶戴天の存在であることを再び分からせてやる!!」
クガはそういうと、自らが持ちうる全てのワム粒子を解放した。
「ちょっと、何する気なの!?」
「いいからお前もやれ!!俺に考えがある・・・」
クガは疑似網膜経由で自らの策をトルヴィアに伝えた。それを聞いて彼女は得心した。
「そういうことね、分かったわ!ワム粒子、開放!!」
二人が放出したワム粒子は煙のようにもくもくと立ち上り、ついにはロボット全体を包み込んでしまった。ロボットはしばらく視界がきかず右往左往していたが、やがてワム粒子濃度が薄くなり視界が段々晴れてくると、二人の姿が忽然と消えていることに気づいた。二台のバイクはそのままなのでおそらく遠くへは逃げていない。
二人を探そうとゆらり、と動いたとき、ロボットはふと違和感を感じた。何やら関節がおかしい。それも全身の。ふと、己の肘を見てみると、関節部にある駆動モーターに、何やら小さなものがついている。ロボットはそれをよく観察した。それは、サナギだった。カブトムシやクワガタムシの。だがただのサナギではない。その中身に詰まっていたのは大量の火薬と小さな時限発火装置・・・爆弾だ!ロボットがそう気づいたときにはもう、遅かった。
「爆破!!」
クガの叫びと同時に、ロボットの目がきかないうちに二人がありとあらゆる関節部に仕掛けたサナギ爆弾が爆発し始めた。この爆弾はロボットを倒すには到底力不足であるが、関節に埋まっているモーターを破壊するには十分だったのだ。関節部が破壊されたことにより、体重のバランスを崩したロボットはついに立てなくなって、山々の大木をなぎ倒しながら、轟音を立てて背中からどすんと倒れた。
機器を感じて再び頭だけでもと分離を試したが、どうやら先ほどのワム粒子開放の影響で首のジョイントに異常が発生したらしく、分離が出来なくなってしまった。そうこうしているうちに、胸の部分にトルヴィアとクガの二人が立って、それぞれの得物をロボットの頭部へとむけた。
「ゴキブリのくせに手間かけさせやがって・・・だがもうおしまいだ!所詮ゴキブリはゴキブリだ、おとなしく人間に潰されやがれ!!」
「本当は、生きたまま捕まえたかったけど、致し方ないわね・・・」
ロボットは、二人の殺意を感じ取った。もがいてももがいても逃げられそうにない。己の最後を悟ったロボットは、壊れたラジオのような不規則な電子音を発しながら、その赤く光る目から涙をこぼし始めた。二人はそれを見て戸惑った。ロボットが涙を流す瞬間は流石の二人も聞いた事が無い。
「涙・・・?ロボットが涙を・・・?」
「・・・どうなってやがんだいったい・・・?」
流れる涙を見て、二人は急に自分たちがしようとしていたことが間違っていたような気がしてきた。電子音の甲高さも相まって、まるで本当に泣いているようだ。
これはいったいどうしたものかと、トルヴィアがロボットの喉元に視線を落とすと、何やら丸い穴のようなものが開いている。その穴は、壊れた電子音を発する度にぶるぶると震えていた。・・・まさか!
彼女はその穴を覗き込んでみると、中にはまるで人間の血管や神経よろしく色とりどりのコードが縦横無尽に走っていた。その中でひときわ太いケーブルが断線しているのを見つけると、トルヴィアは穴に両手を突っ込み、そのケーブルを両手でつなぎ合わせると、エネルギーを集中させてケーブルを修復した。次の瞬間・・・
「うええええん!!いやじゃ、いやじゃ、わらわはしにとうない!!うええええん!!」
ロボットの発する電子音が、まるで人間のような声となって山中にこだました。
「うそだろ・・・しゃべるのか・・・!?」
「思った通りね、このロボットは人の言葉をしゃべれるんだわ・・・」
トルヴィアが修復したのは、ロボットの音声回路であった。回路が修復されてからもロボットは泣き続けた。
「うえええん、声さえ、声さえ出せれば、このものたちの誤解も解けるのにぃ、うえええん、わらわはなんとおろかなのじゃ、わらわはフリコいちばんのおろかものじゃぁぁぁ・・・ん?あれ・・・声が、・・・もどっておる・・・?」
「大丈夫よ、もうあなたは喋れるわ。」
「ほ、ほんとじゃ・・・あ、こ、殺さないでくれ!!わらわは何もしておらんのじゃ!!ただ、生まれ故郷で細々と暮らしていたら、おおよそ400年ぶりに人間の姿を見たから、好奇心で覗こうとしただけであって・・・!」
声が治ったロボットは、その雄々しい巨体とはまるでかけはなれた幼い声を震わせながら二人に命乞いをした。二人はそのギャップに思わず脱力したが、とりあえず敵意はなさそうだった。危く敵意のないものの命を絶ってしまう所だった。
「人間を襲う気は、本当になかったのね?」
「そうじゃ、もしそれで何か誤解をさせてしまったのなら謝る、すまなかったのう・・・」
「私たちはここから遠く離れたカヴト王国からきたの。貴方はフリコの出身なら、カヴトと言う名前に聞き覚えがあるはずだけど・・・」
「カヴト・・・そういえば、わらわの設計者がしきりにカヴト、カヴトと言っておったが、もしかしてその者か?」
「もしそうなら、貴方はどうする・・・?」
「どうって・・・別に、どうもせぬが・・・?」
「・・・良かった、どうやら本当に敵意はなさそうね。私はトルヴィア。貴方の言うカヴトの26代目の子孫よ。そんでもってあなたが脅かした子はクインヴィ。私の従妹なの。」
「カヴトの・・・子孫・・・?言われてみれば、そのカヴトというものもそのような鎧を付けていた気がするのう・・・で、そちらの者は?」
「・・・俺はクガ・ミツル。カヴト王国の虫人を束ねる征虫大都督だ。さっきは、すまなかったな。切羽詰まっていたとはいえ、あんたの関節をぶっ壊しちまって・・・」
「よいよい、整備ドックに戻ればまだスペア部品がある。最も最後に使ったのが100年前故、オーバーホール・システムが動くかどうかわからんが・・・」
その言葉を聞いてトルヴィアの目は輝いた。あの工場にまだ秘密が隠されているとは。やはり破壊しないでよかった。トルヴィアは自分の直感に感謝した。
「ねえ、今回のお詫びとして、良ければあなたを私たちに修理させてもらえないかしら?そして、貴方やフリコの事ももっと知りたいの。修理がてら、色々教えてくれない?」
「それは真か!・・・分かった、わらわの知る限りのことを教えてやろう。本当は軍事機密なんじゃが・・・まあ、それを定めたフリコはもう滅びたからの。遵守する義理もなかろうて。」
「決まりね。じゃあ戻りましょ、・・・えーと、貴方、名前なんて言うのかしら?」
ロボットは二人の手を借りてトレーラートラックの状態に戻りつつ、彼女の質問に答えた。
「わらわの名は、ローチェ。フリコ市国戦術人型兵器、ゴッド・キラー・アッセンブリ第35番機のローチェじゃ。以後よろしくな、トルヴィア殿、大都督殿。」
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