第四章:強敵飛蝗兄弟
第15話 K21区の孤児盗賊団
三日前に変異虫の大規模襲撃があったK21区では、防壁の修復が行われていた。アリンコと呼ばれている自動防壁建設機械が破壊された防壁の淵を渡って、破損部分を補修していた。既に基礎の鉄骨は組み終わったので、あらかじめ配合しておいたコンクリートを、丁度蟻の腹部に当たる部分にあるミキサーでかき回し、口からどろどろと型枠に流し込んでいく。だがその間にまた変異虫がやってこられたら防ぎようがないので、虫人達は防壁周辺の警備を強化して復旧に当たっていた。
そして今日はその進捗を確認しに大都督たちがやってきた。トルヴィアも来ているが、今日の彼女はいつもの軍帽と軍服の上に、王族用のコートを羽織っている。なぜなら今回は、国王の代理の立場で来ているからだ。K21区は変異虫を抑える重要な防衛ラインの為、変異虫の忌避剤や重光線装置などの対変異虫兵器などが度距離も優先して配備される。また、変異虫への新たな対抗兵器が作成された場合の実験場も兼ねているのだ。
だが、この区で運用されていた最新の忌避剤が破られて、居住区への侵入を許したとなれば、早急に新たな忌避剤を開発してこの区や他の地区にも導入しなければならない。これらへの耐性を付けた変異虫がミドリコガネジバシリだけとは限らないからだ。対変異虫兵器を新たに作成する場合には王国軍と国王の許可が必要であるが、緊急を要する場合には国王から委任された者の許可でもよいとされている。その委任者に、トルヴィアが選ばれたのであった。
トルヴィアはクガ大都督と共に被害状況を確認し、それらを国王への電子報告書にまとめて、公共有線通信基地から王国のデータ・センターへと送信した。既に報告書には王の
そして、トルヴィアとクガはK21区にコクワとミヤマを残し、復旧に勤しむ作業員たちを慰問、激励し、乗ってきた公用車、ナナフシでその地を後にしたのだった。
・・・
K21区から王都へは険しい山道を登らねばならない。だがこれでも改善された方である。今走っているバイパス道路とは別に旧道が存在するのだが、そこは急カーブに急坂、しかもすれ違いが困難な箇所が28か所もあるというので普通なら近づかない。王族が乗っているならなおさらだ。だが、不幸にもそこへ通らねばならない理由が発生し、ナナフシは停まった。道のど真ん中に大きな石がいくつも立ちふさがって通せんぼをしていたのだ。
「まいったな、これじゃ進めないぞ・・・」
「旧道に迂回するのは?」
「いや、ダメだ。あそこは急カーブに急坂で危険だ、それに・・・」
「それに?」
「あそこにはよく盗賊が出るという噂だ。しかも、そいつらはみな子供なんだとか・・・迷子になったとうそぶいて車にやすやすと乗り込み、逃げられない、助けが呼べない場所まで誘い込んだうえで、首元にナイフを突きつけるんだ、命が惜しくば金目の物をだせ、ってな。」
「子供のくせに狡猾ね・・・」
「流石に軍人には手を出さないだろうが、今俺たちは玉璽を持ってる。それがある以上、危ない真似は出来ない。」
「そうね、一旦戻って、こちらも復旧してもらうように頼みましょう。」
という訳で早速、ナナフシを転回させて来た道を戻ろうとアクセルを踏んだその時。
「危ない!!」
目の前にゴロゴロと大岩が転がってきて、こちらも道路の真ん中に座り込んでしまった。あともう少しクガがブレーキを踏むのが遅ければ二人とも潰れていたであろう。
「ふさがれちゃったわ。」
「・・・なあ、妙だと思わないか?」
クガはやけにいぶかしんでいる。
「落石に気づいて引き返そうとした瞬間にまた落石・・・こんな都合よくいくことってあるか?」
「確かに、これは変ね・・・」
「まるで誰かが俺たちを狙っているかのようだ・・・トルヴィア、緊急信号弾を発射して救援を呼ぶんだ、そしたらすぐに窓の鎧戸を閉めろ、もし盗賊が現れても絶対にナナフシの外から出るんじゃない。仮にもしナナフシの外へ出されることがあったら、まずは玉璽を死守するんだ、分かったな。」
「御意。」
トルヴィアは窓を開けて緊急信号弾を拳銃に装てんし、上空に向かって発砲した。信号弾はしばらくひゅるると上った後に大きな赤い閃光となって爆散した。そしてトルヴィアが急いでナナフシの鎧戸を展開したとたんに、草むらから突然声が上がった。
「囲めーっ!!」
号令と共に道路のわきの林から、年端もいかない子供らがわらわらと飛び出てきて、ナナフシを取り囲んだ。皆、頭にバンダナを巻いて手にはナイフを持っている。
その中でひときわ目立っていたのが、これらの中で背が高く、眼帯とスカーフ、そしてコートを身にまとった二人の青年であった。おそらく彼らがこの盗賊団の頭なのだろうか。
「なにものだ、貴様らは。」
クガが鎧戸越しに話しかけると、左目に眼帯をしている青年が丁重に答えた。
「名乗るほどの者じゃないです。僕らはK21区でもかなり貧しい地域に住んでましてね。一日のパンさえも食うのに苦労しています。その車を見るにあなた方は相当の地位のあるお方と見た、そんなあなた方にお願いいたします。どうか恵んでくれませんか。」
「物乞いにしてはちょっと物騒すぎるな、ええ?」
すると、今度は右目に眼帯をしている青年が話しかけてきた。
「金目のものならなんでもいいよ、お兄さん。例えば・・・そう、玉璽とかでもいいかな?」
トルヴィアの玉璽を包む腕がぎゅう、と強まった。彼らは知っている。ここに玉璽を載せた車が通ることを事前に知って、待ち伏せしていたのだ。
だがクガは決して引き下がらない。
「ガキのくせに調子に乗るなよ・・・お前らが喧嘩打ってる相手は、この王国で一番強い奴とその師範なんだぜ?てめえらじゃお話にもならねえ、奪えるもんなら奪ってみやがれ!」
吐き捨てるように叫ぶと、クガはナナフシに装備されているマシンガンを二人の青年の足元に向けて掃射した。下っ端たちはいつもとは違う状況に恐れおののいて地に倒れたが、二人は恐れるどころか思い切り高く飛んで大岩の上に飛び乗った。ものすごい脚力だ。
「どうやら、痛い目にあわなければ分からないらしいね、キクマル兄さん。」
「なるべく手荒い真似は避けたかったけど、そっちがその気ならしょうがないな。マサル。」
キクマル、マサルの二人は互いに頷くと、お互いの眼帯を取って放り投げた。そこには眼球はなく、真っ赤なガラス状の球がはまっていた。そしてその中で、風車のようなものがくるくると回りだしていく。それを見たトルヴィアは息をのんだ。彼女の疑似網膜はそれを見るなり、”コード”と視界に表示したのだ。
「気を付けて!彼らは虫人よ!」
「何!?」
キクマルは左腕を腰に添え、右腕を左肩までぴんと伸ばして、ゆっくりと右肩の方へ回して、肩の真上に来た時に右拳を腰まで落とし、左腕を斜め右へと伸ばした。
マサルは両腕を右肩の方へ伸ばし、ゆっくりと左肩の方へ回して、両腕がそれぞれの方の真上に来た時に、左肘と右拳を肩の高さまで落とし、強く両拳を握りしめた。
そして二人は、同時に叫んだ。
「「変身!!とおーっ!!」」
二人が同時に飛び上がり、空中で宙返りをすると、そこには深緑のバッタの仮面をかぶった虫人が現れたのだった。だが、その仮面の半分は目のないバッタだがもう半分は真っ赤な目(コード)がのぞいているだけのむき出し骸骨であった。
「未登録の虫人が・・・ほかにもいたなんて!!」
「トルヴィア、気を付けろ!!何をしてくるか分からない!!」
二人のバッタの虫人はまた大きく飛び上がって、ナナフシめがけて飛び蹴りを放った。
「「くらえ!
子供らしく高々に技名を叫んだ二人の飛び蹴りは、ナナフシに当たるや否や大爆発を起こした。周りの者たちはみな拍手喝采で二人をたたえる。
「さっすがキクマル、マサルの兄貴!」
「技のキクマル、力のマサル、ばんざーい!!」
「兄貴たちがいれば俺たち絶対にくいっぱぐれないぜ!今日も楽勝だな!」
だが、彼らの見立ては甘かった。マサルの疑似網膜が轟轟と上がる爆炎の中でうごめく2つの人影を見つけた。
「き、キクマル兄さん、大変だ!奴らまだ死んでない!!」
「何だって?」
「ワム粒子の反応がある・・・これって、まさか!!」
彼らは、さる情報筋からここを玉璽を載せた車が通るとは聞いていたのだが、その車に乗っている人物の情報までは知りえていなかったのだ。豪炎の中からゆらりゆらりとかきわけて、虫人に変身したクガとトルヴィアが出てきたときには、さすがの盗賊団も肝を冷やした。
「に、兄さん・・・俺たち、とんでもない奴に喧嘩売ったんじゃ・・・!!」
「このパターンは、初めてだな・・・」
クガとトルヴィアは構えた。玉璽は安全の為対燃断熱カバーに包まれて炎の中にある。今はそのほうが安全だ。
「よくも俺のナナフシを・・・許さん!!」
「あなたたち、おいたはそこまでよ・・・!」
怒りに燃える二人の反撃が始まった。
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