第5話 国王の電撃訪問
突然やってきた第25代カヴト王をサナグは丁重にカヴト家邸宅の貴賓室に招き入れ、平身低頭の礼で迎えた。
「執事サナグが、国王陛下に拝謁いたします。陛下、万歳、万歳、万々歳。」
「楽にせよ。」
「感謝いたします。雑用の為、もてなしの準備が遅れましたことをお詫び申し上げます。」
「謝らなくてよい。余も大した用事できたわけでは無いのだ。まあ、座ろう。」
国王はサナグと向かい合って座った。執事が注いだ茶を一口飲み、深くため息をついてから窓の外を見ながら話しかけた。
「なあ、サナグよ。そなたがこのカヴト家に務めてどのくらいになる?」
「はあ、成人すると共にこの家に努めてまいりましたので、かれこれ45年くらいかと・・・」
「ほう、そんなにたったのか。ならば余よりも、この家の事に関しては詳しいだろうな。」
「いえいえ、そのようなことは・・・」
「まあそう謙遜するな、かつて余や死んだ兄がまだ子供だった頃に、この邸宅でそなたと一緒によくかくれんぼをして遊んだな。この家のどこに何があるか熟知しているそなたが鬼になると、余や兄がどんなに上手く隠れてもわずか数分で見つけ出してきて、次こそは上手く隠れてやる、とよく地団太を踏んだ。」
「はは、お懐かしい思い出でございますなあ陛下。」
ははは、と互いに談笑しながら国王は茶を飲み干すと、改めてサナグの方へ向き直った。
「ところでサナグよ、一昨日、そなたは何をしていた?」
「私目はトルヴィアお嬢様の看病をずっとしておりました。既に報告済みだと思いますが・・・いかがなされたのです?」
「・・・実はな、一昨日、トルヴィアが指揮を執っていた発掘隊の作業員らが、妙なものを見たと報告してきたのだ。」
「はて・・・妙なもの、とは?」
「率直に言おう。カブトムシ型の、虫人だ。」
やはり、本題はそれだったか。サナグの予想は当たったが、彼はそれを表情に出さず、あくまでも自分は知らないふりをした。
「虫人の一人や二人、王宮にもいるではありませんか。」
「ああ、だが、先ほど征虫
「・・・なぜ、そのような出来事を私に?」
「これとは別に、昨日もう一つ報告が入った。城下町にて巡回していた警備兵の何人かが、一昨日のちょうど同じころ、カブトムシ型の虫人が飛んでいたと証言している。・・・余はその者たちにその虫人は、どこから飛んできて、どこへ向かったかと尋ねたのだ。するとみな、同じ方向を差したのだ。」
「一体、どこへ・・・?」
「・・・それが、ここだ。この、カヴト家の邸宅の方だ。」
国王はデスクを軽くたたいて、サナグを一瞥した。サナグは表情は崩さなかったものの、目線は合わせなかった。
「余もまさかと思った。だが昨日ワム粒子検査装置を作動させてみた所、わずかにこの邸宅の方へのびるワム粒子の残滓が確認された。万が一のことを考えてカヴト家の者やこの家で務めるもの全員の動静について調べているのだ。そして現時点で、まだ一昨日の行動についてはっきりしていないのが、あと一人だけになった。・・・」
「・・・はて、それはどなたでしょう?」
「・・・トルヴィアだ。」
「まさか!そんな!」
サナグは天を仰いで、驚愕した(ふりをした)。そして、国王に反論した。
「陛下、トルヴィアお嬢様は何度も言うように、一昨日は急病になられたのですぞ。その時付きっ切りで看病した私の言葉が信用ならないと!?」
「ああ、サナグよ、憤る前に余の話を聞いておくれ。」
国王はサナグの肩に手を置いて顔をじっと見つめる。
「そなたは、私や他のカヴト家の者にとっては家族のようなものだ。そなた自身も、私たちを家族と捉えている・・・人は、家族を守るためなら、時には真実とは違う事を言って、大切な家族を守ろうとする・・・違うか?」
「・・・」
「トルヴィアのおとといの動静について知っているのはサナグよ、そなただけなのだ。ああ、どうか勘違いをしないでくれ。余はそなたを責めたりはしない。そなたのしたことは間違いではない。家族を守るためにした事だ、余だって同じことをするであろう。」
「・・・」
「サナグ。余は真実が知りたいだけなのだ。本当の事だけを申せ。うん?」
だが、サナグの答えが変わることはなかった。
「いいえ、私の言っていることは全て、まごうこと無き事実です。トルヴィアお嬢様は、ずっと、ご病気で臥せておられました。」
「・・・そうか。わかった。時間を取らせてすまなかったな。」
国王はため息をつきながら立ち上がった。
「陛下、お見送りいたします。」
「いや、構わない。ああ、もしトルヴィアが夕方までに戻ったら連絡をくれ。彼女自身にも一応聞いておきたい。」
「畏まりました。」
「では、失礼する。」
「しからば・・・」
国王は付き添いの侍従を連れてカヴト邸を後にした。彼の心中で抱いていた疑惑は、執事の受け答えをもって既に確信に変わっていた。この件には早急に片を付けなければならないと、国王は心の中で独り言ちた。
・・・
「父上が!?」
「ええ、そうです。先ほどはどうにか私が凌ぎましたが、とにかく今日は二人とも陽が落ちるまでお戻りにならないでください。」
「でも、お姉さまは今日誓いを破られました、罰を受けさせないと・・・」
「ああ、もうそれに関しては今日に限って不問に致します。とにかく今は時間を稼いでください。よろしいですか?クインヴィ様。それでは・・・」
「あ、サナグさん!サナグさん!!・・・」
電話はそこで終わった。公衆電話の受話器を不満げに置いたクインヴィの目線の先には、腕に手錠をかけられて、それでも不安だからと縄でぐるぐる巻きにされた従姉トルヴィアが勝ち誇った表情をしていた。
「いやあ、この疑似網膜って便利ね、人の通話も聞けるし、その内容を文字に起こせるし!」
「全くお姉さまときたら!どうしてこういう時だけ悪運が強いのかしら!」
「さ、もういいでしょ。この拘束を解いてちょうだい。」
「解きません、解いたら逃げるでしょう!」
「追われる理由もないのに、逃げないわよ。」
クインヴィは従姉を結局解放した。トルヴィアは骨をぽきぽきと鳴らしながら伸びをして、クインヴィの横を歩いている。
「ねえ、二人で外にでるの、すごく久しぶりじゃない?」
「そういわれれば、そうですね。もう私たち、色々と忙しくて、家の中でも声をかけられないくらい・・・」
「カヴト家の決まりでは、長女、長男は家長を、次女、次男は王を継ぐ。あと2年もたたないうちに、私たちはそれぞれの道を行くことになるのだから、仕方ないわね。
特にあなたはおそらく建国以来初の女王になるわ。銀河連邦含む他の友好惑星へのあいさつ回りとか、
「・・・お姉さま。それまでに、この国は、この星の文明は、存在しているでしょうか。」
クインヴィは不安げな表情で従姉に尋ねた。
「もう、クインヴィったら心配性ね。そのために私が頑張って昔の技術を発掘してるんじゃないの。前回は大外れだったけど、今度こそはあたりを引いて、変異虫対策の特効薬を見つけて、王国の防衛にさらに貢献して見せるわ。だから、貴方は何も心配せず、自分のやるべきことをすればいいのよ。」
「・・・」
トルヴィアは意気揚々と胸を張ったが、クインヴィの顔からは不安な表情は消えなかった。そのうちに、二人は先祖の墓がある王陵公園で時間つぶしをすることに決めて、そこへ向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます