Mの研究日誌(2023/03/25)

 J先生の力も借りて、Kへの協力を取り付けた。Kのような視点の人間を、オクトを観測する実験者として得られたのは収穫だ。

 仕事と生活の合間で良ければ、ということでKにもオクトの研究に参加してもらうことになったが、Kとのコンタクトをとった昨日、早速Kからの連絡があった。


 J先生との会話を録音したところ、不明な音声データがほぼ同時刻に携帯端末に録音されていたので、それを添付して送ってくれた。

 音声を聴くと、男児の声で「しーね、しーね、しーね」と連呼している。これは僕の勝手な憶測だけれど、よく聴くと「楽しいね、楽しいね、楽しいね」と言っているようにも聞こえた。オクトも、僕とKとの接触を喜んでいるのかもしれない。

 興味深かったのは、Kが送ってくれた音声データが、何の阻害もなく僕のPCに送られていたことだ。

 僕が実験で得た音声データを以前、外部に発信した時は受信側のデータに損傷が見られ、情報を共有することができなかったからだ。

 今度、Kに実験の音声データを送る際、CCに以前送信した協力者や機関のアドレスを入れてみることにする。

 それによって、音声データを共有できる条件を更に特定することができるかもしれない。


(Mの要請により、秘密保持の為、中略)


 オクトとの会話については、シュマイドラー効果のようなものが働いていると考察している。


 超能力についての調査を実施する際、超能力の実在を信じている被験者グループを「羊」、信じていない被験者グループを「山羊」として、二つに分けた後、ESPカードによる透視実験を行うと、「羊」グループでは期待値を上回る正解率が得られたのに対して、「山羊」グループでは期待値を下回る正解率を得られることができる、という超心理学の基礎である。


 当然、超心理学などというものは基本的には実験者効果を加味すべきトンデモであるが、実際にオクトを観測した僕らにとっては、参考にすべき考え方である。


 シュマイドラー効果とはつまり、超能力の実在を信じていない人間に超能力の実在を確かめる実験をすると、有意に「成功率が低くなる」というところに肝がある。


 つまり、超能力否定派が「超能力なんて存在するはずがない」と願っている為に、それを証明する結果が「過度に」現れる。

 あたかも、超能力否定派が「超能力なんて存在しないという説を裏付ける為に超能力を使ったかのように」だ。


 オクトとの交信と会話も似たような効果が現れていると考える。

 つまり、オクトのような超常存在を信じている人間にとっては、オクトはそこに実在するものとして振る舞うが、超常存在を信じていない、または否定している人間の前では、実在しないものとして振る舞う。

 または、もっと恐ろしい存在として振る舞う可能性すらある。


 実際、疑似科学批判サークルに所属している、つまりは超常存在を否定している被験者とオクトとの会話実験は中止せざるを得なかった。

 可能ならば、もっとサンプルが欲しいところではあるが、被験者をいたずらに危険にあわせるわけにもいかない。


 そしてKは謂わばその中間だ。

 クリスチャンとして神の実在を信仰しながら、科学の方法論を理解している。

 僕は幽霊と長らく同居していることもあり、科学徒でありながら超常存在を信じている身の上だが、Kの場合はそれも与太話として流している。

 そういう彼とオクトが交信する時、どんな効果が起こるか期待していたが、彼から送られてきた音声データはその良い指標になった。



(以下、日誌データを送られた「私」の所感)


 何故今になって私とわざわざコンタクトを取ろうと思ったのか疑問だったが、これで理解した。なるほど、確かに私の視点は、ある意味で希少なものであるというのはわかる。

 ただ、私もこれ以上深入りするべきでないと思ったらそれ相応の措置は取らせてもらうし、この「代理日誌」と名付けた「小説」を更新し続けることは保証しない。

 そういう旨をLINEでMに伝えると「君はそれで良いよ」というメッセージと、ちいかわのお辞儀スタンプが送られてきて、ちょっとイラついた。

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