32話
あの後、通報した警察が駆けつけ、あけみは逮捕され、僕は事情聴取を受けることになり、母さんにめちゃくちゃ怒られて、家に帰った。時計は午前2時を回っていた。
さすがに疲れ切った僕は、そのまま電気も付けることなく、自室のベットに倒れると、アテナが顔を覗かせた。
「漱石のアホっ!! 刃物を持ってる相手になんで挑発するのよ!? 死んじゃったらどうするの!?」
アテナは怒りを爆発させていた。疲れ切っていた僕は、彼女の言葉にちょっとだけウンザリした。
「そうなれば、ずっとアテナの側にいられるな……」
僕は冗談半分で言った。
「バカっ!! そういうことを言ってるんじゃないの!!」
どうやら冗談は通じなかったみたいだ。
「漱石が死んだら、私はどうしようかと思った。私はあんたのことがね……」
アテナは言いかけて、辞めた。彼女の表情が薄暗くて、よくわからない。
「あんな無茶しないでよ」
アテナは一転して、心配そうに言った。
「うん。もう二度としないよ」
僕は事情聴取の帰り道に、あけみとのやりとりを思い返して、ゾッとしていた。もし、あけみが僕の胸ではなく、喉を狙ってきていたら、間違いなく死んでいた。さっきは予想通りに胸を狙ってくれたからよかったが、運が悪ければ、僕はアテナの側で目覚めていたところだ。これからの人生で、もし刃物を持った人と遭遇したら、すぐさま逃げ出そうと固く誓った。
「……でも、ありがとう」
アテナは優しく微笑んだ。
「うん……」
彼女のありがとうの一言で、一気に気が緩んだ。今日一日の疲れがドッと体を駆け巡り、強烈な睡魔が襲ってきた。
「漱石。今日は本当にありがとう。何度言っても足りないから言わせてね。ありがとう。だけど、もう二度とこんなことしないでね」
「うん。もうしないよ」
「本当になんて言っていいかわからないわ」
「そうだな……アテナ……僕……事件解決……できた」
「そうね」
「約束……ちゃんと守った」
頭の中では微睡の中、ちゃんと言葉が思い浮かんでいるのに、口が全く追いつかなかい。
「アテナ……」
目を開けようとするが、薄っすらとしか開けることができず、ただ、アテナの顔が近づいてきたところで眠りについたことは、次の日の朝に思い出した。
「ありがとう。私のスーパーヒーロー……あなたが好きよ」
§
朝、自分の部屋のテレビをつけると、三ノ宮家強盗殺人事件の犯人が自首したと朝のニュースで報道されていた。あけみの名前は伏せられて少女Aと呼ばれていた。
「やっと終わった……」
事件が解決して、スッキリしたと言いたいが、犯人が知り合いだから、妙に複雑な気持ちだった。
僕はあけみに対して、許せない気持ちがあるが、その一方で、彼女の話をもっと聞いてやるべきだったと思っていた。それは、僕が事件に対して、もっと深く知って受け止めたいからだ。話を掘り下げると、あけみの怒りと殺意の部分というのは、僕に限らず、アテナであろうと、人間が誰でも持っているもので、あけみと僕の違いは、それを実行に移すか移さないかの違いだったんだと思う。だから、こころの根底の部分はたぶん、彼女と変わらない。だからこそ、僕は彼女に怒りを覚えるし……そして、許したいとも思っている。
そして、事件が終わって、余裕ができた僕は、アテナと素直に向き合いたいと思っている。
(そう。アテナのことが好きだということに僕は向き合いたいんだ)
一方のアテナは清々しい様子で、テレビを眺めていた。彼女は事件が解決できて、本当に嬉しそうだった。そして、彼女も僕と同じく、あけみのことを許せないだろう。だけど、アテナは僕と違って被害者なのだ。きっとあけみのことを一生許すつもりはないだろうな……僕だって、殺されたら、その犯人を許せるわけがない。
アテナは僕の方を向いた。
「そう言えばさ、あけみが犯人だったわけだけど、それなら、私たちが地下金庫で目撃した上原さんは、いったい何をしてたのかしら?」
「ああ、それなら……。
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