10話
家に帰ると、アテナが待っていた。
「どうだったかしら?」
彼女は不安そうに僕に訊いた。
「うん。話しているうちに、だいぶ明るい調子になったけど、失言しちゃって、結局、塞ぎ込んだままだ」
僕の話を聞いたアテナは肩を落とした。
「それでも、前みたいな酷い拒絶じゃなかったから、だから今度は、あけみちゃんを外に連れ出して、遊ぶことができたらいいのにってみなもと話してたんだ」
「なるほどね」
「アテナはあけみちゃんとどんな風に遊んでたんだ?」
僕はアテナにヒントを求めた。
「うーん、そうね……」
アテナは記憶を辿り始める。
「ちょっと憶えてないわね。中学校の頃は部活と受験勉強で忙しかったし……そういえば、小さい頃は私の家でよくおままごとをして遊んだりしたわね。執事の上原さんも巻き込んで結構本格的にやってたわ。あと、小学校卒業の時は家の庭にタイムカプセルを埋めたかしら……」
「タイムカプセルなんて、ちょっとロマンチックだな……って、ちょっと待って。いまなんて言った?」
とんでもないブルジョワワードが聞こえた気がするが、もしかしたら羊と聴き間違えたかもしれないので、念のために確認する。
「えっ? タイムカプセルのこと?」
「その前」
「おままごとのこと?」
「そのちょっと後ろ」
「えーっと、執事の上原さんも巻き込んで……」
どうやら聴き間違いではないらしい。
「お前ん家、執事いたの!?」
「えっ? 普通いるでしょ?」
そういえば、アテナが資産家の娘だということを忘れていた。
「いや、普通はいないよ。だって僕の家に執事はいないだろ?」
「えっ? 漱石が執事じゃないの? 家事とか家の雑用全部やってるじゃん」
コイツ。もう一度幽霊にしてやろうか。
「アホか!! 執事じゃねぇ!! 知らない間に押し付けられたんだよ。父さんも母さんも仕事で忙しいし、妹は部活と受験で忙しいし、みんな何にもしないから、なんか僕がやるハメになったんだよ!」
だから、将来結婚する相手は家事をしてくれる人と心に決めている。
「うそうそ、ジョーダンよ。マイケル・ジョーダン」
アテナは笑いながら言った。
「しょうもな。そんなんでウケが取れるほど、お笑いは甘くねぇぞ……それはそれとして、執事もあの館に住んでたのか?」
僕が聞くとアテナは首を振った。
「ううん。通いで、家の近所に住んでたわ。あと料理人もいたし……みんな元気にしてるかしら」
アテナは言いながら感情に浸っていた。
「あのさ、執事に会ってみないか? あけみちゃんの情報を集めたいんだよ。執事の人も、もしかしたら、あけみちゃんのこと覚えてるかもしれないだろ?」
「もちろん構わないわ。私も久しぶりに顔をみたくなっちゃった」
僕はあけみのことで展開が開ける可能性が見えたことに安堵するが、執事宅へ伺う言い訳を考える必要があるから面倒だ。まあ、明日に考えればいい。
「そんなことより、今日は何してたんだよ? ずっと家にいたのか?」
僕はアテナに訊いた。
「私は両親を探していたわ。もしかしたら幽霊になっているかもしれないし、心当たりのある場所を探していたのよ」
—もしかしたら幽霊になってるかもしれない—
僕はその言葉が胸に引っかかった。
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