第9話 絶望と決意

 翌朝。


「どういうことだい!?」


 シーリャは悲鳴のような怒鳴り声をあげた。

 彼女の目の前に置かれた木箱の中には、長方形にカットされた石のブロックが入っている。


「アタシの専門は刃物だよ! 石なんかで作れると思うのかい!?」

「俺にだってわけがわからんのだ!」


 シーリャの家まで箱を届けに来たハッサも混乱しているようで、血相を変えて書類を確認している。


「おかしい。発注書には石材と書かれている。シーリャから注文を受けた時には、たしかに鉄材と書いたはずだが……すまん。どうしても、こういうミスはたまに出るんだ」

「よりによって、今かよ!」


 やるせなく、箱を殴りつけるシーリャ。

 二人とも現実を受け入れられず心乱れている様子で、それでも打開策を見つけようと顔を突き合わせる。


「急いで別の素材を手配するが……コンクールは今夜だ。間に合わんかもしれんな。ストックはあるのか?」

「もう一欠片もないよ。昨日、練習用に使ったのが最後だ」

「っ!? それって、僕に見せるために……?」

「勘違いするんじゃないよ。ウサギのせいじゃない。どの道、あんな安物の鉄材じゃコンクールで選ばれるほどの物は作れないだろうしな」


 フォローを入れる声にも力なく、シーリャは塩を浴びせられたようにしょげ返ってしまっている。彼女の目端に雫が浮かぶを見て、マコトは腹内に火が燃え上がるのを感じた。


「ウサギ?」「どうした、坊や」


 マコトは家の奥に飛んでいくと、くず鉄入れの中からサビまみれの包丁を手に取って返し、けげんな顔をする二人に向かった。


「この包丁。サビを落とせばコンクールにも出せませんか?」

「それは、シーリャのか? できると言えばできるが……表面のサビを削り落としたとして、そんなことしたら刃金が傷だらけになって目も当てられないぞ。だったら、そいつを素材に新しい包丁を作る方がましだ」

「無理だよ。クラフトの使いまわしは鉄を弱くする。刃物なんて手の込んだ物を作るなら、特にね。一回蜂に食わせて精製し直さないと」


 大人たちは否定的だが、マコトは退かない。腹の中の熱に任せて、自信をもって言い放つ。


「僕が、この包丁を研ぎます。傷一つ付けずに、作ったばかりのステキな包丁に戻します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る