第7話 クラフト
異世界であっても、時間の移り変わりに大差はないらしい。
金貨を受け取って、マコトとシーリャが商人ギルドを出ると、西の空が赤く色づいていた。適当な屋台で夕食をすませ、買い物をしてシーリャの家まで着くころにもなると、すっかり陽が沈んで、ランプに火を灯さなくては何も見えなくなっていた。
「ありがとうございます、シーリャさん。たくさん買ってもらって」
「アンタの石を売った金なんだから、遠慮することはないよ。むしろアタシの方が礼を言わなきゃならないのにさ」
借り物の荷車から、買ったばかりのベッドや小物を色々と運び込む。
サイコロ岩家のひとつであるシーリャの家は、一人暮らしだそうでさびしいくらいに物が少なく、少し家具を動かしただけでマコトが寝起きするためのスペースを作りだすことができた。
「こんなもんかね。何か気になるところはあるかい?」
「ううん、ないと思います」
マコトは首を横に振って、ベッドに上がろうとしたところでふと訊きそびれていたことがあったのだと思い出した。
「そういえば。ハッサさんと話してた『クラフト』って、なんのことですか?」
「……知らないのかい? クラフトを?」
まさかの質問、といった反応だった。
「これは、ますます異世界人って話が本当らしくなってきたねぇ。……そう、クラフトは何かっていうと……うん。実際に見てみた方が早いか」
シーリャはしばし絶句していたが、ぎこちなく動きだすと隅っこの土間へと移動した。
作業台らしい石机の前に座ると、足元の箱に入っていた鉄の延べ棒を一列に並べる。
「クラフトってのは、神さまに選ばれた人だけが使える特別な力だよ。こうやって決められた素材を揃えて、力を込めながら手をかざすと――っ!」
瞬間、シーリャの手の甲に紋章のようなものが浮かんだと思うと、並べられた鉄くずが光に包まれて、気づいた時には一振りの包丁が出来上がっていた。
「うわあ!」
「そんな驚くようなもんじゃないよ」
魔法を目の当たりにしてマコトが目を輝かせると、シーリャはくすぐったそうに肩をすくめた。
「クラフトなんて、探せば十人に一人や二人は見つかるもんさ。何を作れるかは人によるけどね」
「でも、すごいですよ。この包丁、すっごくキレイ……上手な人が作らないと、こうはならないんじゃないかな」
「ふふっ、まあね。メイテリアのシーリャさんと言えば、刃物作りのクラフトとしちゃ名の知れたものだったのは確かさ」
だった、と。
昔のことのように語るシーリャには、どこか哀しみがにじんでいた。
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