第6話 埋め合わせ
窓の外を見たハッサが慌てた声を上げたのだ。
「まずい、つい話し込んでしまった。坊やのことは気になるが、それよりもシーリャ。結局『蜂の巣』は持ってきていないのか?」
「あー、それなんだけどな。ウサギのことで手いっぱいで……」
「どうするんだ。さすがに何もありませんでは、俺も困るんだが?」
「あ、あの……大丈夫、ですか?」
訊ねてはみたものの、見るからに大丈夫そうではない。
何か大きな問題を抱えているのは明らかで、しかもそれはマコトも無関係ではないようだ。
「もしかして、僕のせいですか?」
「ウサギは何も悪くないよ。あの状況なら人助けするのは当たり前じゃないか。むしろ、見捨てる方がおかしいね」
「それはそうとして、だ。蜂の巣はちゃんと納品してもらわんと、色んな仕事が回らなくなってしまうぞ。せめて、穴埋めに何か用意するとかな。シーリャだって、代金の支払いがないと苦しいだろ?」
「うぐぐ。たしかに、懐は寒いけどさ」
「穴埋め……」
マコトは考え込んだ。
異世界だ何だというのは後回しにするとして、シーリャは蜂から助けてくれた恩人だ。マコトのために行動してくれた結果困ったことになっているのなら、マコトが手助けしなければならない。
「……何か、何かあるかな」
自分の荷物を確認する。
本当なら簡単なおつかいをして家に帰るだけの予定だったので、ほとんど何も持っておらず、着の身着のままの状態だった。リュックの中に入っていたのは、買った商品とレシートくらいで小銭すら残っていない。こんな物が役に立つとは……いや、待てよ?
「あの、これって穴埋めになりますか?」
差し出したのは、石屋で買った砥石だ。
色は鮮やかな赤。長方形のブロック形に固めた人工石で、子どもにおつかいを任せる程度の安物だったが、それを手に取ったハッサは真剣なまなざしで観察する。表面を指で擦ったり、ニオイを嗅いだりした後、丁重にテーブルの上に置いた。
「いいだろう。11枚でどうだ?」
「11ぃ? なあオッサン、ちょっと安くないか」
「金貨で11枚だぞ?」
「きっ……!?」
よほどの金額なのだろうか、不服そうな顔をしていたシーリャが、雷に打たれたように固まってしまった。
「初めて見る石材だ。坊やが本当に異世界から来たのなら、二つと同じものは手に入らんかもしれん。ただ、材質も使い道も未知数だからな。今の段階でこれ以上は出せんぞ」
「そ、それは文句ないけど……でも、ウサギはいいのかい? かなりの値打ちものみたいだよ?」
「僕は、シーリャさんの助けになるならなんでもいいです。『仕事と恩は、受けたからには返さないといけない』って、じいちゃんが言ってたから」
「ハッハッハ! いいことを言うではないか!」
迷いなく言い切ったマコトに、ハッサは天井を仰いで大笑いした。
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