第5話 言葉の謎
「この親父はハッサ。アタシの顔なじみの商人だ。商売であっちこっち旅してるから、ウサギの国についても知ってるかもしれない」
と、シーリャは紹介してくれたものの、期待に反してハッサは何も知らなかった。
あの後、マコトたちはハッサが所属しているという商人ギルドの一室に通されて、そこでマコトの身の上を説明したのだが、「ニホン、だって? 聞いたことがないな」の一言でおしまいである。
「本当に知らないのかい? 少なくとも、アタシらと普通に言葉が通じてるんだから、そんなに遠い国じゃないと思うだけどな」
「あ、あの、そのことなんですけど……」
片手を挙げて、マコトが発言する。
ここまでの道中、通行人の言葉がぜんぜん理解できなかったことだ。
「……ちゃんと聞こえなかったってだけじゃないのかい?」
「いや、そういうんじゃなくて。まったく別の国の言葉みたいに聞こえたんです」
「ふーん? 外国語って、そこまで違うってなるとちょっと変な気がするね」
言わんとしているが伝わったのか、シーリャの表情が改まる。
ことの異常さがわかってくると、芋づる式に別のものも見えてくる。マコトは先ほどから観察していて、新たに気づいた事実を打ち明けた。
「それで、思ったんですけど。シーリャさんやハッサさんがしゃべるところを見てたら、口の動きと聞こえる言葉が違うんじゃないかな、って。ちょうど、アレです。映画の吹き替えとかみたいな」
「エイガノフキカエ、ってなんだい?」
「……なるほどな。言いたいことはわかった。たしかに、坊やが話をするときの唇の動きは変だと思っていたのだ」
ポカンとするシーリャの向かいで、ハッサは頷いた。
「俺やシーリャはクレアトピア国のクレイ語を話してるが、ウサギの坊やにはニホンの言葉に聞こえているんだろう。逆に俺たちは坊やがクレイ語を使ってると思ってたが、本人はニホンの言葉で話していた、と」
「なんだい、それ? 話す側と聞く側とで、別の言葉に置き換わってるってのかい? そんな魔法、聞いたことないけど」
「俺だってないさ。しかし、状況から見てそうとしか……。この坊や。外国どころか、別の世界から来たってことすら考えられるぞ」
「異世界、ですか」
荒唐無稽、と簡単に笑い飛ばすことはできなかった。ありえないようなことが、すでに起こっているのだ。ひとつ常識から外れてしまったのなら、二つ目三つ目があったって何もおかしくはない。
「あと不思議なのは、俺たちとは言葉が通じるのに、他の人間が話していることは分からなかった、というところだな」
「コレだ! って違いっていうと……『クラフト』か?」
「だな。『クラフト』かどうか、という点が関係していそうだ」
……クラフト、とは?
知らないところで二人は納得し合っているが、項垂れていたマコトは訊ねる機会を取り逃してしまった。
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