第22話

 わたしを真正面から抱きしめてくれなくてありがとう。

「わたし、家の外に出る」

何度か試している。

近所なら歩けるようなった。

泣きながらハニートーストを食べるわたしに、ほんとうはなんでもわかるわよ、というようにお母さんが微笑みをくれる。

 門出だ。

 玄関の外へ。3人で。外は怖くない。それでも出る時は出ると宣言してしまう。

「いってらっしゃい」

あと何を言えばいいの?

明るく立ち直ったお兄ちゃんが、お母さんと握手する。

「おばさん!ありがとう、いのりも!」

真正面から抱きしめられた。

 わたしはただ、人生でこれからもう味わうことのない最初で最後の真正面を、ひかえめな腕のちからをかんじる。

 15歳。という言葉が浮かぶ。特別だったから。

 15年。恋焦がれた。

 そして、1度もトーストは焦げることなく。わたしは衣食住でかんぜんに、なんだろうなあ、この気持ち。溺れていた。愛情というとピンと来ないけど愛にも友愛や親愛や恋愛があった。

 とても長く、日の元を感じられなかったけど。

 冬の夜のトキを、わたしは愛する。寒かったわたし。

「15歳でも、ひとりだちできる」

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ハニートーストなんて食べたことないのに 明鏡止水 @miuraharuma30

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