第20話

 それから、……それから。

 おとこのこって、ほんと、すぐどっか行っちゃうのね!でも、あんしんした!

 とお母さん。

 お兄ちゃんは一人前になる。

 わたしは半人前途中。

 あのころ、たしかにお兄ちゃんはわたしを溺愛してくれた。子供の頃はつっけんどんだったのに。

 15歳のお兄ちゃんはわたしにはなしかけ、お小遣いでお化粧品や服があれば外に出るか?と相談を持ちかけ、甘ったるくて地獄みたいなハッピーな朝食を作り、そして。

 じんせいでなんどもみたユメをかなえてくれた。

 陽だまりのなか、あるいは家の中の日光の当たる場所で、背後から抱きしめてくれる。

 はじめてそんな状態になったのはあの〝布団干し〟のとき。

 夢の中に核を置いて、恋心と親愛を種の養分にして、わたしたちは、ひかりのなかに常にいた。

「いのり」

お兄ちゃんがお皿を差し出してくる。

トーストに、蜂蜜を垂らし、高価なバターを画のように四角く乗せた、溺愛の最後の一皿。

「トーストのはちみつが沁み込んで固くなった部分、すき!バターがかすれるくらい!」

わたしはかぶりつく。

 お兄ちゃん、解放されよう。もしよかったらわたしと、わたしと、やっぱり、とろけてゆく。

 「冬夜にいちゃん、就職おめでとう!いいことなんだよね?!」

 世間知らずなわたし。

 わたしは、いま、駅までお兄ちゃんを見送りたい。

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