第19話

 あれから、どうして。

 こうなったの。

 桜が咲く季節になるそうだ。

 わたし、学校に、外に出られないのに卒業する。冬服のセーラーは、あの事故で汚れてしまって新調していない。着ていくものがないなら仕方ないし、お母さんも家計が苦しいのかここで新しい制服を新調する気にならない。

 わたしはいま、


「お前が学校に来ない間に、桜は、卒業式には間に合わず。進学の入学式前には散る」



 塀のあるベランダに大きなレジャーシートを敷いて、その上にわたしの部屋の敷布団をどかっと置いて、干している。そう、こんなでも布団干しだ。

そしてその上に。ついに。

 春の日差しの中、強くないけれど紫外線と直接の光に気をつけなければならない太陽を感じて。

 わたしはバターの夢を叶えた。

「お兄ちゃん、卒業式おめでとう」

「いのりもだろ。こんなに、抱きしめてるのになんなんだろうな。ぽかぽか陽気のほうが気になるなんて」

「わたし、」

 このユメのカタチに憧れてた。

「夢が叶った。お兄ちゃん、」

わたしは、息を吸う。

「わたし、ちょっとずつ外に出るから、お兄ちゃんはとおくへいって。物理的でもなんでも、よく分からないけれど、


こんなふうに、わたしをあいさないで」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る