第11話

 すっぴんで、それほど綺麗でもなくて。

 綺麗という漢字は綺麗だから書けるのだ。

 寝癖で毛先のはねた、アホ毛のあるわたし。

 言ってしまおう。不幸にも、飛び降りの現場を見て、事故を目の当たりにしたショックで一時は声が出せなくなり、人という、人体の形が怖くなり、飛び降りた人よりもずっと呆れるほど心が、精神が壊れてしまったわたしに。

「はんりょ?」

 わたしは、知的なメガネをかけた、いまは自分を労って声をかけずにいる、黙った少年を見やる。

「お嫁さん、って。どういうこと……」

「このままお前が、……トラウマで盆地とか平地とか、とにかく一階しかない長屋とか、平屋とかでしか暮らせないなら。オレがお前と結婚して養っていくしかないだろう」

「なにそれっ!」

わたしはしずかに叫んだ。

「お兄ちゃん他に好きな人いないの?!」

「……いまは、いない」

「ふられたんだね、ヤケになってるんだ」

「ちがう!好きなのはお前のお母さん、つまり、おばさんだ!」

 わたしは、がーん!とした。

 お兄ちゃんは、わたしのお母さんが好き?!

「おばと、甥だよ……」

 わたしは呟く。

 お兄ちゃんも、わかってるよ、とあたまをすこし掻いた。そういうポーズとる人なんだ。

「だからって、その好きな人の娘にいくの、わかんない、似てる?わたしとお母さん!だから、」

「初恋なんだよ!」

言い争っている訳じゃない。

ただ。

「パートナーにえらぶのは、うれしいけど、おかしいよ……」

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