第10話

「お兄ちゃん、わたし、目の前で、ひとが。おちてくるのみたの。その、こ、こうけい、けしき、そこからやっと!ッ」

 呼吸がくるしくなる。

 お兄ちゃんが薬は?と聞いてくるけど自分で歩いてリビングの丸いお盆の上に載った錠剤と忙しくも急がない動作でコップに透明な水をそそぎ、たっぷりのそれを、小さな錠剤とともに一気飲みする。

 大丈夫。深刻な事じゃない。

 見てしまったことは深刻だった。

 ただ思い出すとこうなってしまう。

「おしゃれしても綺麗な服とか靴でも無理なの」となんとかしぼりだす。

「わるかったよ、ごめん、もう何も、おもい、」

 思い出さなくていいから、と。

 みんな言う。でも。そのおもいだすという言葉がおもいださせるのでわたしは思いに、言葉にきをつけて、あの14歳でお化粧を覚え出した日から、アレと、そしていま、15歳。

 こわい。こわくなった。

 たかい建物のある場所が。

 だから、うんと低い場所にいるの。

 そんな底辺に、大好きなお兄ちゃんが来てしまった。薬は5分から10分で効いて。

 お兄ちゃんのつづきのことばを聞くことができた。

「オレのお嫁さんになれ」

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