第12話

 初恋だった。 

 自分の母より、歯の並びがきれいで、しろくて。

 でもある時からコーヒーを飲み始めてからステイン汚れとかいうものか。好きな人。とある女性の歯は黄ばんだけれど、コーヒーの香りのする吐息も気にならなかった。

 わたし、おとこのこにも憧れてたんだよね!

 初恋の人はある日、風呂に入りながらそんなこと言うもんだからその時はなんとも思わなかったけれど。急にあとで恥ずかしくなった。好きな人には、自分と同い年の娘がいた。歯並びは女の子だから、と好きな人が一生懸命、歯科医院に赴き矯正していたようだ。まあまあきれいだ。顔も似ている。

 この人にも、亡くなったとはいえ旦那がいた。

 どんな、男だろう。

 ある日、事件が起こった。

 というより、なんと言うのだろう。事故か。

 好きな人の娘の人生に、事故が起こってしまった。唯一の友人と、その娘は初めて東京に行った。そしたらそこでたまたま飛び降りを目撃してしまったらしいのだ。それから1年、娘は苦しみ続けている。飛び降りた人間の情報は伏せてある。

 いつだったか、言った気がする。

 お前とはけっこんしない。

 言ってない気もする。

 自分は、オレは、どこか遠くの、遠くの血筋の女性をお嫁にして、遠いところか、実家、祖父母の家に通える近くの場所。そこかしこから広大な日本のどこかに住むと、少年ながらに考えていた。

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