第8話

 お兄ちゃんとの。

いまや、わたし・いのりとお母さんとお兄ちゃんの3人で住んでいる家。

3人の家。

なんだか、3匹の子豚を思い出して。誰がわらで、誰が木材で、誰がれんがなのか。れんがなんて漢字書けない。お兄ちゃんもきっと、書けなそう。

……書けるのかな。ライトノベルばっかり読んでるし。

「お兄ちゃん、学校遅れるよ?」

わたしは試しに言ってみた。もう、自分がいつどんな風に身支度して学校に通学していたのか覚えていないから、指摘するしか、遠慮がちに聞かれた問いに答える事も、パジャマ以外の服についての追求にも対応できない。

 完全にコミュ障ってヤツかな……。

 小さい頃、お互いの母達が自立するまで。

 わたしたちは一緒に祖父母の家に預けられていた。最初に身を立てたのは化粧品会社に入った叔母さんで、お兄ちゃんも出て行った。いつのまにか遊び相手も、一緒に同じ時間にお風呂に入る相手も失って。

 過疎化の進んだ田舎では、女の子はわたしひとり。車でおじいちゃんが連れて行ってくれないと、他の子にも叔母さんにもお兄ちゃんにも会えない。

 くっついてる時はそうでもないのに、離れるとお兄ちゃんのたましいみたいな、跡(あと)を感じたくて仕方ない。そして、1年に2度くらい。あまくてとろけて、会話も沈んでいってしまう、どろどろの2人のバターの夢を見る。でも。今は別。

 お兄ちゃんは、目の前に。時を重ねて。

 また。このカタチになってしまった。

 お兄ちゃんは、口を開かず。

 廊下を、わたしを通り過ぎて、リビングのお母さんにそろそろ行ってきます、と言った。

 

 お兄ちゃんが、わたしに話しかけるなんて……。

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