第2話

 朝。

 特別なめざめ。

 ああ、夢を見てよかった。


 わたしはベッドからするりと足を床へ落とし、立って、夢から遠ざかる。

 

 現実でも、お兄ちゃんとあんな風に、背後から抱きしめてもらって、お話ができたら……。

 顔があつくなる。朝から熱が出そうだなんて。

 今日は特別な夢を見た、いつもの、なんでもない日。

 パジャマのまま、一階へおりて。

 朝食がテーブルに並んでいるのを確認する。

 トースト、コーヒー、ブロッコリー、目玉焼き、プチトマト。

 これが普通に出てくる。

 母の手によって。

「いのり、おはよう!」

母が無理して声を張る。泣きそうな声だ。

わたしはいい子ではないので、こんなに毎日朝ごはん作るの大変だろうな、とか。こんな時でも笑顔で声帯がカラカラとうまく発声出来ないくらいに悲しんでいて、辛いだろうにとは思わなかった。

 なぜか。こんなことを思うのは。

 トーストに引っかかるものを感じる。

 そうだ。

「おはよう。マーガリン塗る。」

わたしは冷蔵庫を開けて特殊な塗り棒みたいな金属ナイフの入った、プラスチックの楕円の、クリーム色の箱を取り出した。この形はなんて表現すればいいんだろう。

 一昔前の可愛いお弁当みたいな形のマーガリン専用容器みたいな形。

 

 バター。

 

 誰かが囁いた気がした。

 わたしは心の中だけで答えた。

(バターも濃厚で脂が好きで香ばしさが引き立って好きだよ?でも塩分が多くて。そこがいいけれど。うちではマーガリンなの。ましてや)

 苦手なハチミツが、キャラメルが、似合う女の子になれるかな?

 キャラメルマキアートなら飲めるのに。

 ハチミツが子供の頃から苦手だった。


 そこで、今朝の夢を思い出せた。

 お兄ちゃんは、ハチミツもピーナッツバターも大好きだ。かわいそうに。お兄ちゃん。

 

 トーストにマーガリンを塗るわたしに母は。お母さんは。

「お兄ちゃん、きょうから、うちに住むから。よろしくね?」

わたしは力を込めすぎてマーガリンを塗るナイフでトーストを削った。

 そうだ。叔母さんが、

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