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それから昼食を挟み、少し休憩した後は、予定通り掃除の時間だ。
「掃除始めますね」
「お願いね」
なずながマリンに声を掛け、掃除機を持って二階へ向かおうとすると、ハクが慌てて着いてきた。
「ハク君、今日は疲れたでしょ?ゆっくりしてて良いんだよ」
なずなが腰を落としてハクに言うと、ハクは躊躇うように顔を伏せたが、なずなが持っていた埃取りをおずおずと手に取ると、小さく口を動かした。
「…僕も、やる」
頬を赤らめるその姿からは、ハクが勇気を出して言ってくれているのが伝わる。なずなは懸命な姿に心打たれながら、「じゃあお願い出来る?」と尋ねれば、ハクは元気良く頷くのだった。
なずなが掃除をする時、ハクはいつもこうして手伝ってくれている。きっかけは、なずなが掃除機を抱えて部屋を回っている時、何か出来る事はないかと、ハクが手伝いを申し出てくれたからだ。慌ただしく家の中を駆け回るなずなを見て、何か思う事があったのかもしれない。
掃除では、住人達の部屋掃除も任されているのだが、なずなとしては、それぞれのプライベート空間を回るので、誰かと一緒の方が心強かった。因みに、ギンジの部屋は入ってはいけないと言われている。ギンジはなずなとの関わりを拒否しているので、部屋に入れたくないのは当然かもしれない。
ハクのお手伝いはその日だけかと思いきや、気づけば部屋掃除に向かう時は、必ずハクがやって来る。
ハクとしても、もしかしたら、一人で過ごすより、誰かと一緒に何かしていたいのかもしれない。
そして、二人の部屋掃除が始まった。
一番掃除のしがいがあるのは、春風の部屋だ。ただ寝てるだけ、という割に、何故かいつも物が散らかっている。部屋のタイプだが、春風とギンジ、空き部屋は畳の部屋で、寝る時は布団を畳の上に敷いていた。なので、春風の部屋は、いつも布団が敷きっぱなしだ。掃除は毎回、それを畳む所から始まる。散らかった物を片付けて、埃を取り、掃除機をかけて、窓を拭いて。ハクと一緒なら、掃除も楽しかった。
その次に難儀なのが、ナツメの部屋だ。彼の部屋の壁には、人気絶頂の最中で突然姿を消し、日本中を喪失感に陥れた伝説のアイドル、
そんな二人に対し、フウカとマリンの部屋はとても綺麗だった。春風とナツメの部屋を見た後だから、余計そう思うのかもしれない。整理整頓が行き届き、清潔感に溢れ、あまり生活感を感じられなかった。
そう思うのも、二人共、極端に物が少なかった。物を持たない主義なのか、それとも何か理由があるのか。一週間の付き合いでは、あまり踏み込んで聞くのも躊躇われる。マリンは訳ありだと言ってたし、フウカも言わないだけで、何か心を縛るものがあるのだろうか。
最後に、空き部屋の窓を開ける。庭に面したこの部屋からは、立派な桜の木が見えた。手を伸ばせば届きそうな距離だ。
今は残念ながら葉桜だが、きっと春になれば見事な花を咲かすだろう。
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