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フウカの作るご飯は本当に美味しかった。

ほっとする味わいの豆腐の味噌汁に、焼き鮭、少し甘い玉子焼き、ほうれん草のお浸し、昨日の余り物だという筑前煮、つやつやの白いご飯。よくある日本食ではあるが、どれもとびきり美味しい。


「うち、朝は和食が多いんだけど、大丈夫でした?」

「はい!どれも凄く美味しくて、プロの味みたいです!」

「それは言い過ぎですよ、どこにでもある朝食ですから」

「でも私には作れませんから!」


目を輝かせるなずなに、フウカはほっとした様子だ。


「フウちゃんは、キッチンカーでサンドイッチ売ってるのよー」


マリンの言葉に、なずなは、え、と声を上げた。


「もしかして二駅先でよく行列作ってる…」


フウカは「ご存知ですか」と、少し嬉しそうだ。


「でも、一番人気は店長のたまごサンドですよ。あの味は本当に真似できない、絶妙な味わいなんですよね」

「フウちゃんのも美味しいわよ」

「ありがとうございます」

「私も一度食べてみたいなって思ってたんですけど、いつも並んでるから諦めてたんですよ」

「それなら今度持ってきますよ、今回のお詫びになるか分かりませんが」

「え、良いんですか…?」


目を輝かせたなずなに、「わ、嬉しいな~」と春風はるかぜが反応すれば、「春風さんの分はありませんよ」と、フウカはつれなく返答した。


「えー、冷たいなー」

「僕は今回の事、よく思っていませんから。ギンジさんの事情は分かってたのに、人間の女の子を連れてくるなんて」

「マリン君が守ってくれたじゃないか」

「守ればいいという話ではありません!なずなさんを怖がらせたじゃないですか、彼女が倒れた原因は僕らですよ」


自分の事に責任を感じてくれているフウカに、なずなは申し訳ない気持ちになった。

確かに最初は怖かったが、マリンのおかげで自分は傷一つ付いていないし、こうして会話を交わしていると、彼らは人と変わらないのではと思えてくる。なので、能天気かもしれないが、なずなの感覚として、恐怖はすっかり薄れていたし、妖というのも忘れそうになる位だ。


だが、フウカは違う。勿論、なずなに対する体調への心配もあるだろうが、どこか頑なにも見えるフウカの態度は、このアパートでの秩序が乱れないかと心配しているようにも感じる。優しさはあっても、人と妖、そこにきっちりと線を引こうとしているように思えて、それが少し寂しかった。

彼もギンジのように、人に対して思う所があるのだろうか。


「まぁね…でも、今回は連れてきて正解だと思うよ」


なずなの寂しさを振り払うように、春風は声を明るくした。


「どういう事です?」

「今回の火の玉の犯人、あれ、フウカ君も気づいてたでしょ?テレビでも報道されてる犯人とは別人だよ」

「え、どうして分かるんですか?」


驚くなずなに、春風は肩を竦めた。


「言ったでしょ、僕達は妖。僕は一応神だけど、まぁ似たようなものだ。同族の事は分かる。

今まで騒がれてた火の玉は、三つ同時に現れ色は青白かった。あれは術で操って出したものだろうね。だけど、今回お嬢さんを襲った火の玉は、オレンジの火の玉が五つ。あれは自らに火の玉を纏い、自身の姿を消して現れたんだ。恐らく、火の玉騒動を面白がって便乗したか、誰かに頼まれて僕らを陥れようとしたか。どちらにせよ、被害者のお嬢さんを僕達は守った。邪魔された腹いせに、お嬢さんをもう一度襲う可能性だってあるし、お嬢さんを使って、更に僕らを陥れようとする可能性だって、ないとも言いきれないでしょ?」


そして、春風は頬杖をついて、にっこりとなずなに微笑んだ。


「だから提案したいんだ、君、うちに住み込みで働かない?」

「え?」

「は?彼女は人の子ですよ?昨日あんな目にあったばかりなのに!それに、彼女にだって生活があるでしょう」


思わず立ち上がるフウカに、マリンが穏やかに窘めた。


「待ってフウちゃん、少し様子を見ておく点で言ったら、私は賛成かも」

「え、だって、マリンさん!」

「安全を考えて、念の為って事。春さんの言ってる事も一理あるわ、私達に関わってしまったばっかりに、なずちゃんは妖に利用されかねないもの」

「でも、ここに居たって同じ事になりませんか?それに、そうなるって確証も、」

「そうね、でも私は心配って話。決めるのは、なずちゃんよ」


マリンは、ぽん、となずなの肩を叩いた。


「フウちゃんの言う通り、なずちゃんには、なずちゃんの生活があるからね」


マリンが春風に目を向けると、春風はにこりと頷き、なずなに向き直った。


「でも、なずな君、仕事探してるんでしょ?」

「え?」

「神社で祈ってたでしょ?昨日、このアパートを訪ねる前に」


そう言われ、なずなは、え、と顔を上げた。

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