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「危険に巻き込むつもりはないよ。それにフウカ君も分かってるじゃないか、警察なんかにあれは捕まえられない。お嬢さんが居なければ、君はあの時、火の玉をその手に捕まえる事が出来たはずだものね」

「え?」

「ちょっと、春風はるかぜさん!」

「僕達はそれが出来るんだよ、人間ではないからね」

「…どういう事ですか?」


あまりに突拍子もない話に、なずなは理解が追い付かない。

揶揄われているのだろうか、それとも新手の詐欺か。まさか、人間ではないなんて信じられる筈がない、人間でなければ何だというのか、彼らはどこからどう見ても人間だ。


「…何を言ってるんですか春風さん」


なずなの戸惑いを汲み取るように、フウカが言う。フウカの声は落ち着いていたが、その表情からは焦りが窺えた。だが、春風のポーズは変わらない。


「この方が手っ取り早い。ミオ君達に言われたでしょ?人ともっと仲良くしなさいって。人間と打ち解けていないから、犯人だって噂されるんだって」


二人はどこか深刻とも取れる様子だったが、なずなは訳が分からず困惑していた。


「…あの、揶揄ってるんですか?この手紙の事も嘘なんですか?」

「嘘ではありませんよ、僕はこれでも神ですから。貧乏神ですけどね」

「…は?」

「ちょっと!」

「信じられないのは当然、ならば信じて貰いましょうか」


焦るフウカを気にも止めず、春風は、にこ、と笑むと、パチンと指を鳴らした。すると、キッチンから様子を伺っていたナツメの体が、ふわりと宙に浮いた。


「ぎゃ!何するんだ!下ろせよ!」


ふわふわ浮いたまま、ナツメがキッチンから出されると、春風が再び指を鳴らす。すると、猫だったナツメは人へと姿を変え、床に尻餅をついた。


「いってぇー!何するんだよ、春風!」

「え、ナツメ君?アイドルのナツメ君!?」

「なんだよ!」


目を見開いて驚き声を上げたなずなは、ナツメに睨み付けられ、ひ、とソファーの上で後退った。猫が喋って人に化けただけで十分驚きだが、テレビの中ではいつもお日さまのように笑っている彼に睨まれるのも、なずなには衝撃的だった。


「彼は、猫又なんだ」


それからと、春風は指先をフウカに向けたが、フウカが睨み付けるのでその手を上げた。


「そこに居るフウカ君は、火の鳥」

「…え、」


なずなが目を向けると、フウカは困った様子で頭を抱えた。まるで、そうだと認めているような仕草に、なずなはその話を信じそうになり、慌ててソファーから立ち上がった。


「…な、何言ってるんですか?今の手品とかでしょ?私、そういう勧誘は間に合っているので」


何が何だか分からないが、あり得ない事が起きている。目の前に起きているもの全てが理解出来ず、きっとこれは、そういう宗教集団なんだと、なずなは思う事にした。

人を超えた力をあなたも手に入れられるとか何とか、そうやって人を引き込むつもりなんだと。

感じた恐怖を別の恐怖にすり替えて、なずなはパニックに陥る自分を冷静に保とうとした。


しかし、なずなが立ち上がった途端、春風の指がパチンと鳴ると、なずなの足は途端に力を失くし、再びソファーに座り込んでしまった。

え、と顔を上げると、春風と目が合い、にこりと微笑まれた。

まさかこれも彼の力なのか、と青ざめるが、逃げようにも、何故か足に力が入らない。力が入らないというか、足があるという感覚が全く得られない。なずなは何度も自分の足を叩くが、痛みも手が触れた感触もしない、まるで自分のものとは思えず、なずなは足が失くなってしまったかのような感覚に混乱し、得たいの知れない恐怖に震えた。


「これは、種も仕掛けもない力だと、信じてくれたかな」

「え…」


パチッと春風が指を鳴らすと、なずなは足に力が戻るのを感じた。一瞬にして、足を叩く手の感触も、痛みも戻ってくる。心底安堵したなずなだが、それでも信じられない思いで春風を見上げると、目が合った彼は、なずなを安心させる為なのか、再びにこりと微笑む。


「大丈夫、君に危害を加えるつもりはないよ。ただ、僕の話を信じて欲しいんだ」


困った様子で眉を下げた春風からは、確かにこれから危害を加えようとするようには見えなかったが、たった今妙な現象が起きたばかりだ。消えぬ恐怖に、なずなが思わず身構えると、春風は「少し話をしようか」と、申し訳なさそうに帽子の上から頭を掻いた。



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