百日前

 年が明ける前、冬の刺すような冷たい風が吹き抜ける古びた小さな神社に、とある女子高生がやってきました。

 事前にしっかりと学んで来たのでしょう、作法は完璧で、覚悟のある顔つきをしていました。期待が持てる感じがします。

 久しぶりにいい子が来たよ。

 私がそう言うと、もう片割れは、

 まだわからないよ。

 と、冷静でした。

「運命の人が現れますように……」

 一緒に女の子を見下ろして、女の子の願いを聞きました。

 恋愛成就だね。

 私は参拝に来るたいていの人間が抱えているいつもの悩みだと思いましたが、もう片割れは違和感を感じたようでした。

「好きな人と結ばれたい」じゃなくて、「運命の人と会いたい」なんだね。

 確かに、と私は頷きました。私たちが女の子についてやいやいと話しているうちに、女の子は足早に帰っていきました。

 その次の日も女の子はやってきて、昨日と同じように、完璧な作法で参拝していきました。

 昨日の女の子がまた来たよ。

 私は片割れにそう報告しましたが、片割れは興味がなくなったようで、雪を捕まえようと手を振りかぶっていました。

 もっと話を聞いてやりなさいよ。

 私はそう主張しましたが、片割れは、

 どうせいつものやつだから。

 と、女の子が真剣な気持ちである可能性を否定してきます。私が説得している間に、女の子は帰っていきました。

 そのさらに次の日も、女の子はやってきました。

 前日の雪が積もって、神社もその周りも、ふわふわの真っ白な世界です。階段にももちろん積もっていました。

 鼻先を赤くして早朝に現れた女の子は、参道で滑って尻もちをついていました。それでも小さい子どものように軽く立ち上がって、いつものように参拝していきました。

 今日も来たよ。

 私は片割れに声をかけましたが、今日も雪遊びに夢中で、私の話を聞く耳なんて持っていませんでした。

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